共鳴の空間 -シンフォニーの世界-
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サントリーホール
(東京・赤坂)
<ワインヤードアリーナ形式>

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ブルックナーのシンフォニー

主体と環境の共鳴

 


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2003年12月20日発行

 

 

 ブルックナーのシンフォニー

 天空をつらぬくようなトランペットのかがやかしい音がホール全体に反響する。木管楽器のこまかいパッセージは弦楽器のゆたかな音色につつみこまれていく。ここは東京・赤坂のサントリーホール、若杉弘指揮の東京都交響楽団がブルックナーのみごとな音響空間つくりだしていく。

 2003年10月22日、わたしはブルックナー作曲・シンフォニー(交響曲)第9番をきく。

 ブルックナーの音楽は実にユニークであり、彼のような作風は他に例をみることができない。音楽は、いわゆる時間芸術であり時系列的に展開されていくのであるから、「ストーリー性」が当然つよくなるはずである。しかしブルックナーの音楽は、大自然あるいは大宇宙の音楽であり、それはあくまでも空間にひびきストーリー性をうしなっていく。ブルックナーの音楽は「空間の音楽」である。

 ここサントリーホールでは特にこのことをつよく実感することができる。ここは実によくひびくホールであり、その音のよさはひろくしられている。サントリーホールは日本有数の音楽専用ホールで、内外の一流の演奏家による演奏会が連日ひらかれている。

 このホールは「ワインヤードアリーナ形式」というめずらしい形式をもつホールで、ステージが中央にあって、それを客席がとりかこむような構造になっている。客席は、舞台のうしろ側にも存在し、ブドウ畑(ワインヤード)の段々畑のようにブロック状にわかれている(写真)。このようにすると音響効果が非常に大きくなるとともに、客席のどこからでも演奏家がみぢかに感じられ、演奏家と聴衆との一体感がうまれてくる。音楽家たちも「 聴衆とコミュニケーションができるホール」とのべている。

 ホール全体が木を多用していることもあり、とてもあたたかい雰囲気がホール全体にかもしだされ、最近は木の状態もしだいによくなってきて、それとともに音もよくなってきたといわれている。残響時間は中音域で2.3秒、あかるい ゆたかな ひびき、重厚な低音にささえられた安定感のあるひびきが実現されているという。

 ブルックナーのシンフォニーは、このホールにおいて、客席にとりかこまれたオーケストラがかなでる音と、ホールの反響との相互作用によってつくられていく。オーケストラの音が中心から周辺へとなりひびき、その音はホールの壁や天井などに反射して、音楽はホール全体にひびきわたりみごとなシンフォニーになっていく。これは、作曲家とオーケストラとホールとの合作であり、このいずれがかけてもよい音楽はうまれない。

 

 主体と環境の共鳴

 このようにシンフォニーは、直接音と反響、音の作用と反作用、つまりオーケストラとホールとの共鳴によって成立する。オーケストラとホールとが真に調和した瞬間、この「共鳴の空間」がうまれるのである。それは、すべてがみちたりた世界であり、かぎりなく相乗効果がうまれる仕組みである。

 そして、ホールにとってはオーケストラは「主体」であり、オーケストラにとってはホールは「環境」である。したがって、この現象は「主体と環境との共鳴」ということができる。主体と環境との関係は決して静的なものではなく、動的なものである。

オーケストラとホールとが「共鳴の空間」をうみだす

 

 サントリーホールできくブルックナーのシンフォニーは、主体と環境とがおりなすダイナミックスを端的に実感させ、その仕組みをわかりやすくおしえてくれる。中心からの直接音よりも全体の「ひびき」をよくきくようにすると、「共鳴の空間」をよりふかく味わえることもしだいにわかってくる。

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