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思索の旅 第14号
ヒマラヤタール

> ヒマラヤタール(多摩動物公園)

目 次
14-1 問題解決の各段階の内部で情報処理がくりかえされる
14-2 出力により情報処理は完結し、言語化により情報ファイルは完成する
14-3 質問と批判は情報源として有用である
14-4 まず、印象にのこったことを何もみないで書き出す
14-5 ディスカッションは情報処理の手段である
14-6 作品と場が共鳴して意味のある表現ができる
14-7 問題意識をふかめるために『現代用語の基礎知識』が役立つ
14-8 人の顔と名前をおぼえることは記憶の訓練である
14-9 空間記憶法で動物の姿と名前をおぼえる

14-1 問題解決の各段階の内部で情報処理がくりかえされる

 フィールドワークもそれ自体が情報処理の体系である。フィールドワークでは、視覚聴覚などの感覚器官をつかって情報を心に入力し、心の中で情報を処理する。そして、価値のある情報を圧縮・要約して言語として出力する。これが記録となる。記録とは実は情報処理の結果なのである。
 「ラベルひろげ→ラベルあつめ→表札づくり」とすすむKJ法の「グループ編成」も情報処理の過程になっている。「ラベルひろげ」でラベルをみるのは情報の入力である。そして心の中で情報を処理する。そしてラベルをあつめ「表札づくり」へとつなげる。表札づくりは、情報処理の結果を圧縮・要約して言語として出力することにほかならない。
 そして、「累積KJ法」とよばれる問題解決法では、問題解決の過程でKJ法をくりかえす。すなわち、問題解決には段階があり、それぞれの段階の中においては情報処理が何回もくりかえされることになる。
 効率的な情報処理では、机や模造紙などの空間を利用して情報を並列的に処理する。それに対して問題解決は、時間軸にしたがってすすんでいく。つまり、問題解決は時間的にすすんでいくが、その段階の内部では空間的並列的に情報が処理されるといえる。
 結局、情報処理は仕事の空間的側面を、問題解決は仕事の時間的側面を反映したものであり、両者は1つの仕事の2つの側面であり、表裏一体、相互補完の関係にある。

14-2 出力により情報処理は完結し、言語化により情報ファイル完成する

 情報処理は出力(アウトプット)をすることによって完結する。何らかの出力をしないと中途半端になってしまう。
 一方、情報ファイルは、体験を言語化することによって完成する。
 したがって、情報を圧縮・統合し、言語出力までかならずおこなわなければならない。またそこに言語の意味がある。

情報処理

図1 出力により情報処理は完結する

情報ファイル

図2 言語化により情報ファイルは完成する

14-3 質問と批判は情報源として有用である

 「国内事業評価報告書」(ヒマラヤ保全協会)を発行したら、質問や批判が多数よせられた。
 あつまってきた質問や批判をもとにして「質問と回答」集を別に編集すれば、それ自体があらたな成果(アウトプット)を生みだしていくことになる。質問と批判はきわめて重要な情報源である。
 他人の質問や批判をいやがる人が時々いるが、そうではなく、これらを貴重な情報としてとらえ、情報処理をおこなって、あらたなる情報生産やアウトプットをおこなっていくのがよい。できあがった「質問と回答」集は、読者の気持ちをひきよせる効果もあり、ウェブサイトや報告書などのうしろにつけておくと効果的だろう。
 このようなことがわかってくると、最初から、「質問と回答」集をつくることを念頭においてプレゼンテーションをした方がよいこともわかってくる。質問や批判がでやすいようにあらかじめ環境を設定しておくのである。

14-4 まず、印象にのこったことを何もみないで書き出す

 旅行記は、はじめから完璧なものを書こうとかまえるとなかなか書けない。そこで、まず、もっとも印象にのこったことを自分の記憶ファイルから何もみないで書き出してみる(出力してみる)のがよい。
 たとえば次のような順序で書いてみる。次のそれぞれの段階の文章をのこしておけば、旅行記執筆のサンプルにもなる。

  • (1)もっとも印象にのこったことを約100字で書く。
  • (2)そのほかに印象にのこったことをそれと並列的に書く。
  • (3)旅行中にとったメモがあれば、それをみてそれらを修正・補足する。ほかにおもいだされたことがあれば書きくわえる。
  • (4)資料(地図やガイドブックなど)をみてそれらを修正・補足する。他におもいだされたことがあればかく。この段階では場所が特定されていればよい(日付はわからなくてもよい)。
  • (5)旅行中につけた日誌などがあれば、日付ごとに正確に情報を整理する。これで旅行体験の本文ができあがる。
  • (6)記載したことを圧縮して本文の要約をかく。
  • (7)自分の体験と参考文献とを共鳴させてあらたにかんがえたことをかく。(5)と(6)をあわせると考察になる。
  • (8)まえがきを書く。
  • (9)まえがき、本文、考察の順に文章を配列し、最後の調整をする。
  • (10)印象的な写真を本部中に挿入する。写真には題名をつける。

 上記のうちでできるところまでをやればよい。時間がないときは(1)だけでもよい。このようなことをしてみると現地でメモや記録をとっておいた方がよかったということがわかってくる。
 重要なことは次の点である。
 今まで記録とか取材とかを論じていた人々には、心の中の「情報処理」と心の中からの「情報の出力」というちゃんとした自覚がなかった。したがって、記録や記憶の本当の意味もわかっていなかった。メモや記録をとるということとは、旅行中に五感を通して自分の心の中に入ってきた情報を、心の中で一旦処理し、その結果を外部へ出力することである。また記憶とは、心の中に蓄積された情報ファイルのことであり、情報ファイルをつくることは情報を処理する上での第一歩である。
 「印象にのこったこと100字」や旅行中のメモは「出力」の第一歩であるから、一旦出力されたそれらの情報を活用し、それらをふくらませる方法で「出力」をさらに充実させていく方がよい。記録をまとめるというよりも、増幅させることが重要である。この訓練は出力すなわち文章力を強化することになってくる。ここのところがわからないと、いつまでたっても「ウンウン」とうなりながら文章を書きつづけることになる。

14-5 ディスカッションは情報処理の手段である

 ディスカッションをしながら、他人の発言をきくということは、他人の情報を自分の心のなかに入力することである。
 あたらしい情報が心の中に入力されると、すでにある情報と共鳴したり干渉したりする。すると、過去の体験がおもいだされたり、あたらしい考えがうかんだりする。
 ディスカッションの過程でその体験なり考えなりを発言(言語化)する。これは、自分の心の中から情報を出力することにほかならない。必要に応じて情報を圧縮・要約して書き出すこともする。
 このように、ディスカッションにおける「議論→思考→言語化」という過程は「入力→処理→出力」という情報処理の過程になっている。ディスカッションは情報処理のきわめて有効な手段である。

14-6 作品と場が共鳴して意味のある表現ができる

 工芸家は、作品のおき場所も重視し、つくった作品がどのように展示されるかにも気をくばるという。美術館におかれるのか、家の中におかれるのか、野外におかれるのか。周囲の状況や背景は作品に影響をあたえる。同様なことは建築物についてもいえる。背景があってこその作品である。
 こうしたことは芸術家にかぎったことではない。たとえば学者が研究成果を発表するとき、学会で発表するのか、論文として発表するのか、一般著作として発表するのか、ウェブサイトに発表するのか、内容はおなじであってもそれぞれによって表現方法はことなってくる。
 このように、作品(成果)と場の両者が共鳴してこそ意味のある結果がでるのであるから、自分が何かを表現したり発表するときは、その内容をつくるだけでなく、どのような場で表現し発表するのかをきめなければならない。

14-7 問題意識をふかめるために『現代用語の基礎知識』が役立つ

 何らかの問題解決をおこなう場合、まずはじめにやらなければならないのは、テーマをめぐってみずからの問題意識をふかめることである。しかし、あらたなテーマが発生した場合、問題意識を短時間でふかめるのはむずかしいこともある。
 そのようなときに役立つのが『現代用語の基礎知識』(自由国民社)やそれに類する本である。『現代用語の基礎知識』は現代社会のあらゆる分野にわたってキーワードを簡潔に解説している。グローバルな情勢に注意をはらうこともできる。しかも内容は毎年更新されている。
 問題意識をふかめるためには、この本のテーマに関連するページをよみながら、自分の体験や自分がすでにもっている情報をてらしあわせてみる。このような作業をしていると、外からの情報と自分がすでにもっている情報とが干渉したり共鳴したりして、問題点や疑問点が自然にうかびあがってくる。問題点や疑問点がでてきたらメモをしておき、あとでそれらを要約して文章化しておくとよい。文章化された内容はそのまま問題提起になる。この段階ではこまかい用語を暗記する必要はない。あくまでも問題意識をふかめることが重要である。
 この作業において、『現代用語の基礎知識』の関連ページをよむということは、自分の心の中に情報を「入力」するということである。そして外から入ってきた情報と、自分の心の中にすでにある情報(記憶)とが反応するのは情報が「処理」されるということである。最後に、うかびあがってきた問題点や疑問点をメモし文章化するということは、心のなかから情報を「出力」することにほからならない。  問題解決に先立つ問題提起を短時間でおこなうために、『現代用語の基礎知識』を大いに活用していきたいものである。

14-8 人の顔と名前をおぼえることは記憶の訓練である

 人の顔をおぼえることは小さいころから誰もがおこなっていることである。顔をおぼえるには、視覚による記憶(イメージ記憶)が基本であるが、同時に印象も重要である。また、人に出会ったとき、その時その場のなかにその人の顔を位置づけて、空間全体を記憶することも大切である。背景や全体的な状況もとらえるということだ。
 名前がわかれば名前も同時に記憶する。名前は言語であり、それは出会ったという体験のラベルになる。言語と体験とがセットになってひとつの記憶を形成する。この記憶情報のひとかたまりは記憶ファイルとよべる。言語は記憶ファイルの上部構造であり、体験は記憶ファイルの下部構造である。言語は体験を圧縮したシンボルでありラベルである。言語(名前)をみることにより体験をおもいだすことができ、体験をおもいだすと言語(名前)もでてくるという仕組みを心の中に構築しなければならない。
 人の顔と名前をおぼえることは、記憶の仕組みを理解し、記憶力を強化するための格好の訓練になっている。

14-9 空間記憶法で動物の姿と名前をおぼえる

 多摩動物公園へいく。森の中をあるく。さまざまな種類の動物がいる。ハゲワシ園からオセアニア園へまわる。オランウータンの新展示場は建設中だ。アムールトラとオオカミをじっくり観察する。
 わたしは、それぞれの場所で「空間記憶法」を実践し、動物の姿と名前を心の中にインプットしていく。記憶法で大切なことは、それぞれの空間の中に各動物を位置づけて、その空間全体をイメージとして心の中にインプットすることである。その場の背景とセットにして各動物を記憶しなければならない。
 そして、あとで地図(園内案内図)をみかえして、それぞれの場所にいた動物の姿と名前が背景(空間)とともに確実に思い出せるかどうかチェックする。想起訓練をすることがとても重要である。思い出せない場合は、写真やホームページなどを見直して記憶を再構築する。

(2004年8月)

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2005年3月27日発行
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