思索の旅 第13号
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目 次
13-1 あたらしい様式があたらしい世界を生みだす -千利休の「茶の湯」-
13-2 自然の保全・再生では明確なビジョンをもたなければならない
13-3 新聞記事などの資料は写真で保存する
13-4 情報処理の観点からKJ法をとらえなおす
13-5 技術開発と場づくりとは同時にすすめなければならない
13-6 事業評価のつぎには人事評価をおこなう
13-7 東京駅舎は東京の「人工の美」の代表である
13-8 情報を統合して文章化する -アウトライン統合速書法-
13-9 主観と客観の両者をいかす

13-1 あたらしい様式があたらしい世界をうみだす -千利休の「茶の湯」-

 「千利休は、平等思想をあらわす『にじり口』や信頼の契りを交わす『回し飲み』などを発明し、あたらしい『茶の湯』の世界をきりひらいた。『回し飲み』は、元来は武将たちが陣営で酒を回し飲んでいた行為を『茶の湯』の世界にもちこんだものである」(NHK「運命の決断 この人を見よ『豊臣秀吉』」)。
 つまり利休は、「にじり口」をもつあたらしい茶室、「回し飲み」というあたらしい様式を開発して独自の「茶の湯」の世界をつくりだした。利休はこのような発明をすることにより、「茶の湯」の世界を単なる芸術ではなく、力をかねそなえた社会的な機能に発展させたという。茶の湯と利休の力はしだいに大きくなり、「内々のことは利休に相談せよ」と武将たちにささやかせた。
 この「茶の湯」からまなべることは、道具(茶碗など)とともに、それをつかう場(茶室)、さらに様式(やり方)を開発すると人々の行動や生活が変わるということである。様式は道具と場をつなぐものととらえることができる。道具は場の中の要素であり、道具と場は、様式を通して一体になって機能する。
 たとえば、ラベルと模造紙といった道具をつかって情報を処理する「探検ネット」とよばれる手法も、情報処理技術としてとらえるだけではなく、その部屋にいけばいつでも模造紙がひろげてあって、誰がきてもすぐにネットをつくることができるといった「様式」をつくりだせば、その部屋はもう「茶室」(場)になる。はじめから「茶室」(場)として部屋をデザインしておけば「様式」(技術)の効果も倍増する。
 利休の例は、政治力や軍事力だけが世の中をうごかすのではなく、あたらしい様式が世の中をうごかすこともあるという好例である。戦争が一段落したあとではこのようなあたらしい様式の開発が特に重要だろう。現代においては、あたらしい「情報処理様式」があたらしい「茶の湯」の世界をうみだしつつある。

13-2 自然の保全・再生では、明確なビジョンをもたなければならない

 「東京大学と国土交通省とが共同で、河川敷において、外来種植物を排除し、在来種植物を再生させるプロジェクトをおこなった。外来生物は、本来の生息地にいた天敵がいないので、定着に成功すると爆発的に増殖して在来種を圧倒する。また、近縁の種と雑種を作り、日本固有の種が知らぬ間に失われる可能性もある。また、外来生物とともに持ち込まれる寄生生物やウイルスが、人や在来生物に思わぬ病気をもたらすこともある」(NHKサイエンスZERO)。
 在来生物を再生させるプロジェクトをおこなっても、それを維持管理することを恒久的におこなわなければ、外来生物がふたたび繁殖してしまう。恒久的な維持管理のためには人手と資金が必要になる。また、そもそも、どのような自然をのこせばよいのか、恒久的な計画も明確に立案しておかなければならない。
 グローバル化がすすむ今日、外来生物問題はますます大きくなってくるだろう。自然はただ放置しておけばよいという時代はおわった。どのような自然をのこすのか、あるいは再生させるのか、計画・維持管理・活用のすべてにわたって、自然に対する明確なビジョンをもたなければならない。たとえば国立公園などはそのよい例となるべき区域である。
 同様なことは伝統的な歴史地区や文化財に対しても適用すべきことである。グローバル化をすすめつつも、地域の個性を保全しそだてる特定区域を意識的につくっていかなければならない。

13-3 新聞記事などの資料は写真で保存する

 光ファイバーに関する新聞記事をきりぬいて保存してあったはずであっが、どこかへまぎれこんでしまった。新聞記事などは、デジタルカメラで写真をとってファイルしておき、現物では保存しない方がよい。きりぬきの時代はおわった。

13-4 情報処理の観点からKJ法をとらえなおす

 わたしたちはたえず情報処理をおこなっている。目や耳などの感覚器官から情報を心の中にインプットし、心の中で情報を処理し、文章などのアウトプットをだす。
 KJ法も、この情報処理という観点からとらえなおすことができる。KJ法ではまず取材をおこなう。情報の観点からいうと、取材とは、フィールドワークをしながらわたしたちの心の中にあらたな情報をインプットすることである。この点が非常に重要である。現場でみたりきいたりした体験はそのまま記憶として心のなかに蓄積される。このとき、体験をそのままにしておかないで言語によって圧縮・要約しておくと、その体験はよりたしかなものになり、体験の想起もやりやすくなる。
 取材にひきつづき「ラベルづくり」をおこなう。ラベルには現場で体験したことの要約のみをかく。そして、「ラベルあつめ」「表札づくり」「図解化」をおこなう。ラベルの背後には体験をあるので、このラベル操作は体験のすべてをつかっていることになる。
 最後に「叙述化」をおこなう。これは情報のアウトプットにほかならない。
 アウトプットをだすための情報処理は本来は心の中でおこなわれる過程である。しかしKJ法では、その過程をひとつひとつ確認しながらすすめていく。これだと時間はかかるが確実に情報を処理することができる。KJ法をつかわない場合でも、心の中でKJ法と同様なことがおこなわれ情報は処理される。

13-5 技術開発と場づくりとは同時にすすめなければならない

 「自分たちの国にしかできないことを、自分たちの国でつくることがカギです」(西沢潤一、注)。
 技術開発はどこでおこなうかということも重要である。技術はある「場」があってこそ意味が生じる。ある場に適合した個性的な技術には普遍性が生じてくる。技術開発と場づくりとは同時にすすめなければならない。

(注)「モノづくりの精神 社会に役立つ技術力を生みだす」(朝日新聞・広告特集)。

13-6 事業評価のつぎには人事評価をおこなう

 「中心になった人、適度にたずさわった人、あまりたずさわっていない人というように評価すべきである」(西沢潤一、注)。
 事業評価のつぎには人事評価をおこなわなければならない。NGOなどにおいては人事評価をおこなうことは非常にむずかしいかもしれないが、まず、その事業なり活動にたずさわった程度を,(A)中心になった人、(B)適度にたずさわった人、(C)後方から支援した人、という3段階で評価することからはじめてみるのが一案である。

13-7 東京駅舎は東京の「人工の美」の代表である

 「東京大空襲で破壊されたが元通りに復元した。往年の大女優をふたたび舞台にあげるような照明をしました」(「美の巨人 辰野金吾設計・東京駅駅舎」テレビ東京)。
 東京駅は、東京にのこる数少ない「人工の美」のひとつである。地域の人々の精神文化にまでふかくくいこんでいる人工物は破壊されても復元される。「人工の美」は自然と人間をつなぐ美であり、「自然の美」「人間の美」とならぶ美の一種である。

13-8 情報を統合して文章化する -アウトライン統合速書法-

 マイクロソフト・ワードの機能のひとつである「アウトライン」機能をつかうと、情報をうまく統合しながら文章化をすばやくすすめることができる。その手順は次の通りである。

(1)テーマをきめる

・テーマは自分で独自にきめる場合もあるし、組織などでは他人からあたえられる場合もある。

(2)体験やアイデアを書きだす

・マイクロソフト・ワードをたちあげ「アウトライン表示」にする。
・「標準文字列」を選択する。
・テーマに関することを、おもいだした順あるいはおもいついた順にアウトライン形式で1文につづる。
・1文1項目、単文とする。
・心の中の情報をうまく圧縮し要約する。
・この段階では各単文は移動しない。
・とりあえずキーワードだけを記しておき、あとで単文にしてもよい。
・時間的に余裕があれば数日間かけて断続的におこなってもよい。

(3)単文のグループをつくる

・すべての文章をみなおす。
・意味(メッセージ)が似ている文章をそばに移動しグループをつくる。
・グループとグループの間には1行のスペースをいれる。
・ひとつのグループにふくまれる文の数は2〜3、多くても5〜6とする。
・どこのグループにもふくまれない文があってもよい。

(4)見出し(要約)をつける

・各グループの見出し(要約)を1文にしてつづる。
・単語ではなく単文にする。
・見出しの各文は「見出し1」とする。
・中身の元文は「折りたたむ」。
・どこのグループにも入らなかった単文もレベルをあげ「見出し1」とする。
・見出しをつけおわったら全体を選択し、「見出し1」を「見出し2」にする(レベルをさげる)。

(5)上位のグループをつくる

・「見出し2」の各文をよくよむ。
・「見出し2」に対して、さきほどと同様にグループをつくる。
・要約(見出し)をつけ「見出し1」にする。
・中身の文は折りたたみ、
・ どこのグループにも入らなかった文も「見出し1」にする。
・ 全体を選択し、「見出し1」を「見出し2」にする(レベルをさげる)。
・以下同様に、グループづくりと見出しづくりをくりかえし、グループ編成をつづける。

(6)アウトラインを展開し、段落形式の文章にする

・グループの数(見出しの数)が10〜3の範囲になるまでグループ編成をくりかえす。
・グループの数(見出しの数)をいくつにするかはテーマと内容による。
・全体を展開する(アウトライン表示にする)。
・「見出し1」(最高レベルの見出し)が、文章全体の章あるいは段落の見出しになる。
・アウトライン形式を通常の文章の形式になおす。
・「見出し1」(要約)段落の最後にもってくる。
・重複部は削除する。
・文章化しながらあらたにおもいついたことは挿入してもよい。

*注意点*

 これはKJ法を応用した方法である。アウトライン機能は、通常は、まず「見出し1」を書いてからトップダウン思考で文章化をすすめるためにつかうが、これはその逆で、ボトムアップ方式でアウトライン機能をつかう。多様な情報を統合して文章化する必要がある場合には有効な方法である。これは、心の中の情報を圧縮・統合して出力していく情報処理の過程になっている。心の中で、情報の圧縮・統合が自然におこなわれていくので、その統合の結果を文として出力する。情報の階層構造をうまく活用し表現することが重要である。なお、アウトライン機能を、トップダウンでつかうかボトムアップでつかうかは目的に応じてつかいわければよい。

13-9 主観と客観の両者をいかす

 科学論文のスタイルは、(1)「課題あるいは目的」、(2)「方法と結果」、(3)「考察と結論」という構成になっている。(1)と(3)は主観的であるのに対し、(2)は客観的である。すなわち、主観の中に客観的事実をサンドイッチにしてはさんで提示する。この形式は、科学的な研究をすすめていく段階(研究過程)も同時にしめしている。
 この方法は地域研究にもつかえる。わたしはかつてこの方法をつかってある町の地域研究をおこなったことがある(「地域社会とその環境 -秋田県矢島町-」)。
 地域研究では地域住民を主体にして研究をすすめる。(1)では、地域住民の主観をあきらかにする。(2)では、フィールドワークをおこない地域を客観的にとらえる。(3)では、全体をふまえて考察をおこない結論をひきだす。地域住民とともに考察をすすめられれば非常によい。

(2004年8月)

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2005年3月27日発行
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