記録の第一歩 -時空記録-
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インド旅行の記録

時間と空間を点でとらえる

目印で場所と体験を想起する

時間と空間を制御し活用する


2003年12月22日発行

 

 インド旅行の記録

 わたしは、2001年8月15日から8月16日にかけてインド北部を旅行した。そのおりに、旅の記録として以下のような簡単なメモをノートにつけていった。

010805:カトマンズ → デリー

010806:ラール・キラー → ジャマーマスジッド

010807:国立博物館

010808:ラージガート → ガンディ国立博物館 → ラダック・ブッダ・ヴィハール

010809:クトゥブ・ミラール・コンプレックス → プラーナ・キラー

010810:ヴァラナシ → サルナート

010811:考古学博物館 → ジャイナ寺院 → ムルガンダ・クティ

010812:サルナート → ヴァラナシ → ガート

010813:ヴィシュワナート寺院 → ネパール寺院

010814:ヴァラナシ・ヒンドゥー大学

010815:バーラト・マート・マンディール → カトマンズ

(010805とは2001年8月15日のこと)

 つまり、日付と、特に印象にのこった地名や建物の名称のみを時系列に記録していく。このようにしておけば、1ヶ月以上たっても、その日のできごとを情景とともにありありと心の中によみがえらせることができる。

 

 時間と空間を点でとらえる

 フィールドワークでは、まず、時間と空間の中における自分の位置をしっかりおさえることが大切である。上記のように日にちと場所を明確にしておけば、時間と空間の座標系において自分がどこにいたか、その一点をただしくきめることができる。人間は、時間・空間場におけるある一点にのみ存在しうるものであり、その一点とは、時間と空間が統合された、世界にただひとつのその時その場である。

 フィールドワークの記録で一番重要なのは、このような時間と空間をしっかりときめる記録であり、この「時空記録」こそまず第一にとっていかなければならない。

 「時空記録」を日々つけていると、フィールドワークの進行状況やかかった時間、あるいた範囲、さらにその「速度」までもあきらかにすることができる。「速度」とは「距離」を「時間」でわった値でしめされ、時間と空間とをむすびつける重要なパラメーターである。

 「時空記録」をつける場合、日付はよいとして問題になるのは場所の記録である。おとずれた場所のすべてを記録するのは不可能であるし、またその必要はない。自分にとって印象にのこった代表的な地名や建物の名称などを「ラベル」的にメモするだけでよい。場所や名称を確認するためにはその地域の地図が当然必要であり、つねに方向感覚をもって地図を片手にしてあるいていかなければならない。

 そして、自分にとって何が印象にのこり何が重要であるかは、自分自身の「問題意識」が自然に決定していく。したがって、フィールドをあるくまえに、あるいはあるきながら、問題意識や課題を明確にするように努力しなければならない。

 

 目印で場所と体験を想起する

 日にちと場所とを明確に決定するこのような簡単なメモをつけていると、あとでそのメモをみるだけで、そのメモが「目印」になってその場の情景をありありと想起することができる。メモされた場所と場所とは「矢印」によってむすばれており、おもしろいことに、この矢印上の場所も順序だてて連続的に自然におもいだせる。結局、「目印」は空間、「矢印」は時間をしめし、あらゆる記憶が空間と時間とであらわされることになる。

 あとで旅行やフィールドワークの記録を文章化するときには、これらのメモをみながらその時その場の情景をおもいうかべ、記憶をひっぱりだしながらおこなえばよい。時空記録があるから、そのときの情景や体験を映像として想起することができるのである。

 そもそも、メモとは「想起」のためにあり、メモは「想起」のためにつけるのである。こうして、その時その場の情報を十分に活用するようにすれば、記録にそれほど労力をかけなくても文章化は可能であり、これは一種の文章術にもなる。くわしい日記をつけるまえに是非とも実践したい技術である。

 

 時間と空間を制御し活用する

 このようなことをくりかえしているとオリエンテーション能力が高まると同時に、時間感覚と空間感覚がみがかれ、時間と空間の相互作用に関する認識もふかまってくる。たとえば、フィールドワークの進行状況のみならず、その速度の変化すなわち「加速度」までもが把握できるようになる。つまり、フィールドワークの効率の良し悪しまでもが認識できる。当然、よりせまい範囲(距離)でたくさんの事物が観察できるようであれば、フィールドワークの効率は高くなる。

 またこのようなことにより、様々な記憶が個々の具体的な場所や実体験にむすびつき、その体験をした場所とともに記憶が定着するようになる。これは「場所・体験記憶」であり、情報は、場所と体験にむすびついて映像化され、それに付随する重要な知識までもが場所や体験とともに記憶される。

 こうして時間と空間をうまく制御できるようになると、時間と空間をたくみに活用しながらフィールドワークをすすめることもできるようになってくる。このような能力は問題解決をすすめるうえで非常に重要である。

 今回はインド旅行の例をあげたが、この方法は旅行にかぎらず日々の生活の中で簡単に実践できる。「日付」と「目印」(印象にのこった場所)・「矢印」をパソコンに順次入力していけばよい。そして、1週間後・1ヶ月後・1年後・10年後などに、記録をみながらそのときの情景を想起するようにする。そして情景をおもいだしながら、気にいったテーマについて文章化をすすめる。

 日記をつける時間がない人も、このような方法をつかえばあまり労力をかけることなく「記録をとり」、「記憶を想起」し、「文章をかく」ことができる。記録の第一歩としては、この簡単な「時空記録」からはじめるのがよいだろう。

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(C) 2003 田野倉達弘