フィールドワークと推理法

 

 フィールドワークや思考の出発点にはかならず「問題」がある(図のA 点)。何事も、問題の発生あるいは問題(課題)の設定からはじまり、この問題をふまえてデータ(情報)収集のためのフィールドワークがはじまる。

 現場である程度データがあつまると、そのデータにもとづいて何らかの仮説を提案(発想)する。この仮説提案の過程を「仮説法」とよんでおく。この第一の推理により第一の判断にいたることができる。(B→C)

 つぎに、提案された仮説がただしいと仮定したならば、こうゆう事実が現場で発見されるはずであるという第2の推理ができる。この一般的な仮定から個別の事実を推理する方法は「演繹法」とよばれる。(C→D)

 そして現場に再度いってみて、予想された事実が本当であるかどうかをたしかめる。もしたしかめられれば仮説の蓋然性(確実性)は高まることになる。予想 に反する事実が発見されれば、仮説がまちがっていたことになり、仮説の提案からやりなおさなければならない。このような「演繹法」と現場での検証は1回きりでおわらせる必要はなく、何回もおこない、できるだけ多数の事実(証拠)をあつめるべきである。仮説を支持する証拠がたくさんみつかれば仮説の蓋然性は それだけ高まる。

 このような仮説を検証する作業は「実験」とよばれることもある。したがって、実験にさきだつ「演繹」は「思考実験」とよんでもよい。

 そして、実験によりデータが大量にあつまったら、今度は、それらのデータから一般的な傾向あるいは原理や法則をみちびきだす。これが「帰納法」である。 一般的な原理や法則をみちびきだすためには統計的手法が有効なことが多い。これによってよりたしかな判断にいたることができる。(E→F)

 以上により、現場のデータにもとづいて何らかの判断をするためには、フィールドワークと判断とのあいだを往復しながら「仮説法」「演繹法」「帰納法」という3つの推理法を段階的に順次つかっていくのが有効であることがわかる。またこのモデルが、「仮説法」と「帰納法」とはどこが ちがうのかというよくある疑問に対する1つの回答をあたえる。「仮説法」と「帰納法」とは にているが、問題解決の構造における位置が第一にことなるのである。

 またこのようにみてくると、フィールドワークの方法にも段階によって2種類あることがわかる。1つは仮説を発想するためのデータ収集の段階であり、もうひとつはその仮説をたしかめるための証拠あつめの段階である。前者では、問題意識だけをもって現場をすなおに観察する方法がもとめられ、後者では、仮説を検証するための実験の方法が必要になる。簡単に、前者を「現場観察」、後者を「実験」とよんでもよい。

 上記の3つの推理法はすでによくしられたものであるが、今回は、推理法をフィールドワークとの関係においてとらえなおしモデル化(図式化)した。このようなモデルをもつことにより、問題を解決していくための見通しがつかみやすくなり、よりたしかな判断にいたりやすくなる。

 なお、このような方法は学術的な分野でつかわれることが多いが、推理小説においても同様な方法がもちいられている。

 

(注)わたしはかつて、川喜田二郎著『KJ法』(中央公論社、1986年)の32〜33ページで、発想法・演繹法・帰納法について解説されているのをみ た。そこには、これらの3つの方法はアリストテレスが提案したものであり、発想法とは仮説を発想する方法で、これは、哲学者パース(Charles Sanders Peirce)のなづけたアブダクション(abduction)であるという示唆を哲学者・上山春平さんから えたと記載されている。

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2004年6月14日発行
(C) 2004 田野倉達弘