大前提・仮説・事実と推理法

 

 あるテーマにもとづいてフィールドワークをおこないデータがえられると、そこから何らかの「仮説」を提案(発想)することができる。その仮説は、データにもとづき、テーマをめぐる「大前提」のもとで でてくるものである。データとは現場の「事実」をあらわしたもの(記載したもの)であり、「大前提」とは、一般的なルール、原理とか法則などで、いかなる「仮説」も「大前提」を無視して提案することはできない。このような推理法は「仮説法」とよばれる。(図1)

 そして、いったん「仮説」が提案されると、今度は、その仮説が仮にただしいとしたならば(その仮説が真であると仮定したならば)、このような事実が現場において発見されるはずであるという予想をすることができる。そして実際にその事実が発見(観察)されれば、その仮説の蓋然性(確実性)はつよまることになる。ここでは、「大前提」→「仮説」→「事実」という、一般から個別へとすすむ推理法をつかうことになり、これは「演繹法」とよばれる(図2)。予想に反する事実が発見された場合は、仮説はまちがっていたことになり、仮説の提案からやりなおすことになる。

 したがって、「仮説法」により仮説をいったん提案すると、次に「演繹法」を何回もくりかえしながら、予想した事実を観察しデータ(証拠)をあつめることにより、仮説の確からしさをどんどん高めていくことができる。こうして「仮説法」と「演繹法」とをくみあわせてつかうことにより、仮説とデータとがつくる体系を構築することが可能になる。

 ところでこれらに対し、「仮説」→「事実」→「大前提」とすすむコースもありえる(図3)。これは、ある仮定にもとづいて現場でデータをあつめ、一般的な傾向や原理・法則をみちびきだす方法である。これは「帰納法」とよばれる方法であり、統計的手法がその例にあたる。「仮説法」と「帰納法」とはどこがちがうのかというよくある疑問に対する一つの回答がここにある。

 このようにして、「事実」「大前提」「仮説」という3つのキーワードにより、「仮説法」「演繹法」「帰納法」という推理法をモデル化することができ、このようなモデルをおぼえておくことにより、情報処理や仕事の生産性は格段に高くなり、問題解決はよりやりやすくなる。

 

(注)竹内均・上山春平著『第三世代の学問』(中公新書、1977年)の158〜161ページにおいて、「哲学者パースは、『ルール→ケース→リザルト』とすすむのが演繹(ディダクション)、『ケース→リザルト→ルール』とすすむのが帰納(インダクション)、『リザルト→ルール→ケース』とすすむのがアブダクション(仮説の発想)であると特徴づけた」と記載されている。ここで、ルールとは「大前提」であり、ケースとは「仮説」であり、リザルトとは「事実」のことである。

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2004年6月16日発行
(C) 2004 田野倉達弘