ヒマラヤ山村のKJ法

- 西ネパールではじめてチーズをつくった -

 解 説
 ネパールNGOネットワークという、ネパールで活動するNGO関係者の連携組織があります。このネットワークは、ネパール現地での市民活動・協力活動に関する報告会を定期的におこなっており、わたしも数回にわたって活動報告をしました(注1)。

 わたしの報告をきいたメンバーから現場でのリアルな実例についても紹介してほしい、とくに「KJ法」について知りたいという要望がだされました。そこで、「KJ法」の実践事例についてあらためてまとめて提出したのが以下の文章です(ここに再掲します)。「KJ法」とは、現場の声にしたがって問題を解決していく方法です(注2)。

 ネパールの都市部で「KJ法」を実践した例はこれまでにもありました(注3)が、ヒマラヤ山中の村で「KJ法」をつかって事業をすすめたのはこれが最初でした。これによりわたしたちは、チーズを製造・販売をネパール西部ではじめて成功させることができました。

目 次

  1. はじめに
  2. 「パルス討論」がはじまる
  3. 「KJ法図解」をつくる
  4. 「衆目評価」をおこなう
  5. 計画立案
  6. 実施
  7. 村人が主体性を発揮した

ポイント

1.はじめに

 ネパール西部のヒマラヤ山岳地帯のなかにあるノウダーレ村では、村を活性化しようという事業がはじまろうとしていた。

 わたしは、ネパール西部の中核都市ポカラでネパール人の友人・エーメ=ピアさんとはなしていた。その結果、「KJ法」を村人に実践してもらって村人が主体になって事業をすすめていくのが一番いいだろうということになった。ピアさんは、わたしが所属する国際NGOの現地スタッフであり、わたしがポカラで開催した「KJ法」講習会にかつて参加したことがあったので「KJ法」についてはよく知っている。「KJ法」とは、ヒマラヤ技術協力のパイオニアで民族地理学者の川喜田二郎が創始した問題解決の方法である。

 村の事業は、あくまでも村人が主体になってすすめていくことが大切であり、余計な援助はしない方がよい。援助をすると村人のなかに依存心がそだってしまい、結局、人々は自立できないのである。

 ノウダーレ村での人々は、村を活性化させるために、「チーズ製造・販売」事業をはじめようとしていた。この村のちかくには、アンナプルナ・トレッキングルートというネパールでも有数のトレッキングルートがはしっており、ゴレパニ・タトパニ・ジョムソンなどいった大きなロッジ街がある。そこには、欧米のトレッカーが多数あつまってきてチーズ料理をたくさん食べている。そのチーズは、とおくの東ネパールからカトマンドゥ・ポカラ経由ではこばれてきていた。

 そこで、もし、ノウダーレ村でチーズをつくることができれば、これらのロッジ街に販売して収益をえることができるのではないだろうか。こうして、村人の提案により「チーズ製造・販売」事業の計画がもちあがった。

 わたしたちが今回もちいた方法は、「パルス討論」→「KJ法」→「衆目評価」という手順をふんでいく。「パルス討論」とはグループでおこなう討論の方法であり、村人が情報や意見をだしあった。そしてその結果を「KJ法」をつかって図解にまとめて「村人の声」の全体像をあきらかにした。そして「衆目評価」を実施した。「衆目評価」は、テーマをめぐって重要だとおもう項目に対して村人が点数を投票し、問題を解決するための重要なポイントをうかびあがらせる方法である。

2. 「パルス討論」がはじまる

 討論の参加者は、ノウダーレ村の事業委員会のメンバーを中心に、のべ29人であった。Aチーム16人(男性10人、女性6人)、Bチーム13人(男性8人、女性5人)の2チームにわかれて、わたしの司会のもとで討論をすすめた。

 討論のテーマは、チームごとに話しあった結果、「ノウダーレの未来」と「明日のノウダーレ」となった。

 「パルス討論」とは、手順を分節的にきり、それを何度もくりかえすので、人体の脈拍の鼓動(パルス)に似ているという意味で「パルス討論」と名づけられた。第1場面では議論をする。第2場面では、各自が自分の意見やもっている情報をラベルに記入する。第3場面では、ラベルを模造紙上に配置する。

 村人の討論の様子を以下に紹介する。

「村の若者が、どんどん村の外に出て行ってしまって、このままでは村は衰退してしまうよ」
「村で現金収入が得られないことが問題なんです」
「地場産業があればといいということは、かなり前から話題になっていました。村に産業があれば現金収入がえられますから」
「村に活力がでてくる」
「そこから『チーズ』事業の話がでてきたんです。ノウダーレはトレッキングルートのそばにあり、ちかくには、タトパニやゴレパニという大きなトレッキング・ロッジ街がある。欧米人がたくさん来てチーズ料理をたべる。需要がある」
「現在のところ、チーズは、ポカラやカトマンドゥからはこんできています。もし、ノウダーレでつくれば売れるにちがいありません」
「そこで、国際NGOのポカラ・オフィスに融資をしてもらえないかと相談したわけです」
「『本当にやる気があるのかどうか、できるのかどうか、立地条件などを見極めたうえで小口融資なら』という回答だった」
「立地条件はよかったので、あとは村のやる気」
「やる気もみとめてもらって、『チーズ』事業開始は決まったけど、問題山積だな」
「どうするんですか」
「どうするでななくて、何としてもやるという決意がいるんだ」
「今回、田野倉さんとピアさんに来てもらって『KJ法』でやることになったのもその流れからです」

「具体的には、チーズをよその土地で販売するためには、宣伝広告やマーケッティングがいるんじゃないですか」
「そのとおりだ」
「だけど、ネパール国内の紛争のせいで、トレッキングルートの旅行者が減少しているようですよ。マーケット拡大のためにもっと努力をしなければならない状況です」
「チーズの質をあげるためには、牛乳の質をあげなければなりません。そのためには、よい乳牛の数をふやさなきゃ」
「牛の数をふやすためには、村としても個人としても牛がたべる草をもっとそだてて、草をふやしていかなければならないでしょ」
「牛乳の生産量が不足しているんです。当初計画しただけのチーズは生産できません。牛の数をふやして、牛乳生産量をもっとふやさなければなりません」
「そんなの簡単にいかないよ」
「農家が乳牛を買うためには融資が必要だよ。融資額もかんがえなくては」
「むずかしいなぁ」
「村の経済的な問題についての解決策をかんがえださなければ。そのためにも、マイクロファイナンスをすすめないと」
「農家の意識を向上させ、農家が牛を購入するためには、低金利ローンがいるでしょう」

「牛が病気になったとき、村に獣医がいないのでこまるんですけど」
「村の農家のために獣医を派遣してもらうことはできないんですか。農家が購入した牛を健康にそだてるためには、獣医とそのための設備がどうしても必要です」
「レネット(牛乳を凝固させてチーズをつくる物質)とカルチャー(培養菌(乳酸菌))をカトマンドゥで買っていますが、継続的に手にいれるのはむずかしいです」
「農家自体が、牛の健康とエサ・薬に関する知識をもっともたなくては。獣医による農家へのトレーニングもやってもらわないと。トレーニングがあってこそ、チーズ事業は、人々や村の経済状態の向上に役立つとおもいますよ」

「チーズ工場で薪を大量使用していると、将来的には森林の破壊が深刻な問題になってくるのではないですか。電力を利用した設備にきりかえるなど、代替エネルギーをどうにかしないと」
「この村は夏場には高温になるためチーズがくさってしまいます。チーズを低温保存できるあたらしい貯蔵庫をつくることはできませんか」
「牛乳の価格とチーズの価格との間にアンバランスがあるので、マーケットもチーズ工場も十分うまくいきませんよ」
「否定的なことばかり言っていないで、これから、チーズ事業を発展させていくためには、質の高いチーズの生産と、農家の意識向上がどうしても必要なんだよ。そのためには、財政的な困難をのりこえていかなければ」
「融資があれば、あたらしいチーズ工場を建設し、これからも事業を継続していくことができます」
「お金よりも、やる気だよ」
「チーズ事業を拡大して、ノウダーレ村の現金収入をふやしていこう!」
「電力をつかう方法もかんがえるべきだ」
「電力はむずかしいね」
「さっきのチーズ貯蔵庫の話で、チーズを貯蔵する低温貯蔵庫がないので、夏の高温期にはチーズがくさってしまうのは深刻だ。今後、継続的に、チーズの製造・販売をおこなっていくためには、チーズの低温貯蔵庫を早急に建設しなければ。また、そのための予算がすぐに必要です」
「学校の先生が、周辺の村々をまわってチーズの宣伝広告をおこなっているが、その他のことでも、学校の先生がかなりの労力をチーズ事業のためにさいています。学校の先生の本来の仕事、学校での教育活動に支障がでてきてますよ」
「チーズの製造過程を正確に記録した方がいい。損失をただしく把握できるようにしなければ」

 村人の議論はこのようであった。以上にもとづいて、自分の意見や情報を各人がラベルに記入した。そしてラベルを模造紙上に張りつけた(写真1)。

情報ラベルを模造紙に張りつけた
写真1 情報ラベルを模造紙に張りつけた

3. 図解をつくる

 「KJ法」の手順はつぎの通りである。

ラベル作り→〔ラベル拡げ→ラベル集め→表札づくり〕→図解化→口頭発表
「KJ法図解」をつくる
写真2 「KJ法図解」をつくる

 できあがった図解を写真3にしめす。

できあがった「KJ法図解」
写真3 できあがった「KJ法図解」(その1)

 口頭発表の様子を写真4にしめす。

口頭発表の様
写真4 口頭発表の様子

 この内容を文章化して以下にしめす。

Aチーム

 Aチームが作成したKJ法図解の内容を翻訳・文章化すると次のようになる。

 (1)農家への融資が必要である。
 農家が乳牛を購入するために融資が必要である。融資額もふやさなければならない。

 (2)牛の数をふやし、牛乳の質をあげる。
 チーズの質をあげるためには、まず牛乳の質をあげなければならない。そのためには、よい乳牛の数をふやし、そして、牛の数をふやすためには、村としても個人としても牛がたべる草をもっとそだてて、草をふやしていかなければならない。

 (3)牛の健康維持のために獣医が必要である。
 牛は、しばしば病気になるので、獣医と、牛の健康をまもるための設備が必要である。同時に、農家自体が、牛の健康とエサ・薬に関する知識をもたなければならない。したがって、獣医による農家へのトレーニングも必要である。これがあってこそ、チーズ製造・販売事業は、人々や村の経済状態の向上に役立つことになる。

 (4)レネットとカルチャーをどのようにして購入するか。
 レネットとは、牛乳を凝固させてチーズをつくるものであり、カルチャーとは培養菌(乳酸菌)のことである。これらは現在カトマンドゥで購入しているが、継続的に購入していくのが困難な状況にある。どうすればよいだろうか。

 (5)チーズ製造に電力をつかう。
 チーズ製造のために大量の薪を使用しており、このままでは森林を破壊してしまうので、電力をつかう方法をかんがえるべきだ。

 (6)チーズの低温貯蔵庫が必要である。
 現在、チーズを貯蔵する低温貯蔵庫がないので、夏の高温期にはチーズがくさってしまう。今後、継続的にチーズの製造・販売をおこなっていくためには、チーズの低温貯蔵庫を早急に建設しなければならない。また、そのための予算がすぐに必要である。

 (7)学校教育に支障がでている。
 現在、学校の先生が、周辺の村々をまわってチーズの宣伝広告をおこなっている。また、その他のことでも、学校の先生がかなりの労力をチーズ事業のためにさいているのが実情である。このために、学校の先生の本来の仕事である、学校での教育活動に支障がでてきてしまっており問題になっている。

 (8)マーケッティングが必要である。
 ノウダーレのチーズをよその土地で販売するためには、宣伝広告やマーケッティングが必要である。

 (9)製造過程における損失を明確にする。
 チーズの製造過程を正確に記録し、損失をただしく把握しなければならない。

 

Bチーム

 Bチームが作成したKJ法図解の内容を翻訳・文章化すると次のようになる。

 (1)農家へのマイクロファイナンスにとりくむ。
 ノウダーレ村の経済的な問題について解決策をかんがえださなければならない。そのためにも、マイクロファイナンスの金額は増額されるべきであり、農家の意識を向上させ、農家が牛を購入するためには、低金利ローンが必要である。

 (2)牛乳の生産量をふやさなければならない。
 ノウダーレ村は、牛乳の生産量が不足しており、当初計画しただけのチーズが生産できず問題になっている。牛の数をふやして、牛乳生産量をもっとふやさなければならない。

 (3)獣医による農家へのトレーニングが必要である。
 牛が病気になったとき、獣医がいないのでこまっている。村の農家のために獣医を派遣してほしい。農家が購入した牛を健康にそだてるために、獣医とそのための設備が村にどうしても必要である。

 (4)代替エネルギーが必要である。
 チーズ工場で薪を大量使用していると、将来的には森林の破壊が深刻な問題になってくる。そこで、電力を利用した設備にきりかえるなど、代替エネルギーが必要である。

 (5)あたらしい低温貯蔵庫とチーズ工場建設の資金が必要である。
 ノウダーレ村は夏場には高温になるため、貯蔵庫のチーズがくさってしまう。そこで、チーズを低温保存できるあたらしい貯蔵庫が必要である。また、牛乳の価格とチーズの価格との間にアンバランスがあるので、マーケットもチーズ工場も十分うまくいっていない。今後、チーズ事業を発展させていくためには、質の高いチーズの生産と農家の意識向上がどうしても必要であり、そのためには、財政的な援助が必要である。補助金があればあたらしいチーズ工場を建設し、これからも事業を継続していくことができる。

 (6)マーケット拡大が必要である。
 現在、トレッキングルートの旅行者が減少しているので、チーズのマーケット拡大のためにさらなる努力をしなければならない。

 (7)村の収入をふやす。
 チーズ事業を拡大して、ノウダーレ村の現金収入をふやしていく。

4. 「衆目評価」

 衆目評価とは、参加者各人が、「KJ法図解」のなかで、重要だとおもう項目に点数を投票し、その結果を集計する方法である。結果は、Aランク・Bランク・Cランクに区分され、Aランクが、村人によりもっとも重要であると判断された項目である。ついでBランク、Cランクとなっている。これにより村人の意識の重心がどこにあるかが明確になった。最後には全体発表会をおこない、情報を共有し、テーマに関する意識を当事者間でさらにふかめた。

 結果はつぎのようになった。

(1)Aランク
 ・チーズの低温貯蔵庫が必要である。

(2)Bランク
 ・乳牛を購入するために農家への融資が必要である。
 ・牛が病気になるので、獣医が必要である。

(3)Cランク
 ・牛の数をふやし、牛乳の質をあげる必要がある。
 ・牛がたべる牧草をふやさなければならない。
 ・農家は、牛の健康をまもり、エサや薬も用意しなければならない。

衆目評価の結果を記入(Aチーム)
写真5 衆目評価の結果を記入(Aチーム)
衆目評価の結果を記入(Aチーム)
写真6 衆目評価の結果を記入(Bチーム)

5. 計画立案

 以上をふまえ今後の事業計画をつぎのように立案した。

6. 実施

 ノウダーレ村は、ヒマラヤ保全協会と小口融資にかかわる契約を締結した。要点はつぎの通りであった。

 チーズ事業の融資に関わる契約:10万ルピー(約10万円)、返済期間:5年、猶予期間:1.5年。
 チーズ保冷庫の融資に関わる契約:10万ルピー(約10万円)、返済期間:5年、猶予期間:1.5年。

 乳牛は南部の村で買い、約1週間かけてつれてきた。牛は、なかなかあることうとしなかったがひっぱってきた。

 ネパールにおけるチーズ製造の先進地域のジリから、チーズ職人にきてもらってトレーニングをおこない、試作品づくりからはじめた。最初はうまくいかず、できあがったものを何度も川にすてた。

 今度は、ノウダーレ村のチーズ職人候補生2人をジリに派遣してトレーニングをうけさせた。

 うまくいかなかった最大の原因は、温度計がこわれていたことだったことが判明した。サウジアラビアに出稼ぎに行っている人にたのんで、高精度の温度計を買っておくってもらった。それをつかったらうまくいった。

 最初のチーズができたときは、村人は本当によろこんでいた。わたしもうれしかった。

 その後、徐々に生産量を増やすことができ、3年かけて軌道にのせることができた。利益もあがるようになった。

チーズ工場の内部:チーズ職人のオルジさん
写真7 チーズ工場の内部:チーズ職人のオルジさん
チーズ保冷庫の内部:生産されたチーズとチーズ職人のトリジさん
写真8 チーズ保冷庫の内部:生産されたチーズとチーズ職人のトリジさん

3年後、返済開始

 3年がたちました。

「それでは、返済開始時期になりましたので、返済を開始してください」

すると、ある男性が突然しゃべりだした。

「今頃になってお金をかせとは何事だ!」
「それは話がちがいます」
「プロジェクトをすすめておいて、お金を返せなんて聞いたことがないぞ」
「わたしたちのやり方はちがいます。これは、あくまでも村のプロジェクトですよ」
「わからん!」
「契約書を見なおしてください」

 契約書によると、5年間で計20万ルピーを返済しなければならないことになっている。そして、その後、5年をかけて、計20万ルピーの全額の返済を村は完了した。

返済完了から5年後

 その後どうなっただろうか。うまくいっているという報告をメールではうけていたが、わたしは、自分の目でたしかめるためにノウダーレ村を再訪した。

「今では、チーズの需要は非常に高くなり、供給がおいつかなくなってきているんです」
「ゴレパニ、タトパニ、ジョムソンのロッジからは、もっと供給してほしいと言われています」

 チーズ工場は順調に経営されていた。また、事業の利益によって、学校一帯がみごとに整備されていた。とても感慨深いものがあった。

 村からの帰路、たまたま、チーズをロッジに販売にいくキャラバンと一緒になった。あたらしいロッジ街であるダンプスに売りにいくという。ダンプスは、西ネパールの観光都市ポカラにもっともちいか風光明媚なロッジ街である。ポカラから、日帰りでおとずれる観光客も多い。あらたな市場開拓もすすんでいた。

写真9 チーズをダンプスに売りにいくキャラバン
写真9 チーズをダンプスに売りにいくキャラバン
写真9 チーズをダンプスに売りにいくキャラバン
写真10 あたらしい販売先・ダンプス村

7. 村人が主体性を発揮した

 今回の「KJ法」の実践は、村人みずからが主体的にかんがえ、結論をだし、計画を立案、実施したところに大きな意義がある。わたしはノウハウをおしえ、相談相手になることに徹した。これは、住民が主体になった地域活性化の実例である。

 地域の活性化は、住民主体で参画的におこなわなければならない。それをすすめる具体的な方法・技術が「KJ法」であった。今回の実践により、「KJ法」による主体的・参画的方法は、ヒマラヤ山村部においても十分可能であり、有効であることが実証された。

 また、今回の事業は、小口融資というかたちで資金を用意した。これは、資金供与ではないことに注目してほしい。お金をあたえてしまえば、それは単なる援助になり、村人には依存心がそだつのみである。

 融資と返済ということを経験したことがなかったために一部の村人には当初は誤解があったが、契約を締結しておいたのでそれは解消した。そして村は、チーズ事業の利益から全額を返済した。借りたものは返す。人間としてあたりまえのことである。

 ただし、融資する場合には、返済可能な額をあらかじめ見極めておかなければならない。

 開発途上国における援助事業とよばれるものは、普通は、資金供与によっておこなわれる。これが、「援助づけ」「援助なれ」という言葉がひろくさけばれるようになった原因になっている。援助をする先進国は現地に話をもっていく。援助される向こう側は「先進国の人々がやってくれるのなら」と了解する。また、現地に人々はお金や物をもらって当然だとおもってします。

 ある国際協力機関のオフィサーが言っていたことがおもいだされた。
「われわれが話をもっていって、断られたことは一度もありませんよ」

 このような所には主体性はなく、依存があるだけである。

 主体性とは、人々の内部からわきあがってくるエネルギーである。本当の原因は、その人の心の内部にあるのである。外部の問題ではない。外部から援助をすればするほど、その人は依存心を大きくそだてていく。このような援助は、その人が、みずから学び成長するチャンスを永遠に奪いとってしまう。こうして、自立とは正反対の依存の方向にすすんでいく。

 先進国の人々が、開発途上国の人々をかわいそうだとおもってお金と物をあたえつづけているかぎり、主体性はそだたず、依存の連鎖が果てしなくつづいていく。かわいそうだとおもう、先進国の人々はそのとき優越感にひたっている。

 このようなことをふまえると、いわゆる国際協力活動の根本を改革しなければならない時期にやってきていることがわかる。人々はノウハウを習得し、主体的に自力でやっていくことを本当はもとめているのだ。

 果てしない依存の連鎖を今こそ断ち切ろう!

参考文献&サイト
川喜田二郎著『KJ法 渾沌をして語らしめる』中央公論社、1986年
川喜田二郎著『発想法 創造性開発のために』(中公新書)中央公論社、1967年
川喜田二郎著『続・発想法 KJ法の展開と応用』(中公新書)中央公論社、1970年
ブログ:発想法 - 情報処理と問題解決 - >>
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