推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
45.策謀の結末 “THE CONSPIRATORS”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 ジョー=デヴリンが、「アイリッシュ・デュー」のボトルを死体にむけてころがす。

DVDチャプターリスト

(1)M-11を500丁 (2)アイルランドのために (3)“我らのみ”の意味 (4)警部とアート (5)LAP213 (6)アイリッシュ・デューの飲み方 (7)オコンネル王国のマーク (8)ベルファストへの積荷 (9)直取引 (10)“今日はここまで” (11)”出船させるな” (12)それぞれの信念

犯行の動機

 アイルランド出身の詩人・ジョー=デヴリン(犯人)は、アイルランド革命軍のために、アメリカからアイルランドに自動小銃を密輸しようとし、武器のディーラー・ヴィンセント=ポーリー(被害者)と接触していた。
 しかしポーリーは、デヴリンをだまし、取り引きでえた金をもちにげする計画をたてていた。それに気がついたデヴリンは、ホテルの一室でポーリーを射殺する。
「我々は、裏切り者は処刑するのだ。知らなかったかね(We execute traitors, Mr. Pauley. Didn’t you know that?)」(デヴリン)

コロンボはいつどこでピンときたか

 ポーリーの殺害現場で、ころがっていた「アイリッシュ・デュー」のボトルに、引っかき傷がついていることに気がついたとき。
 デヴリンは、その日に飲むところまで、ダイヤの指輪でボトルに印をつける癖があった。ポーリー殺害現場にのこされていたボトルの引っかき傷は、デヴリンがパブで飲んでいたボトルについていた傷とおなじであり、デヴリンの指輪をしらべれば、彼がつけたものであることがわかる。それが、デヴリン逮捕のための決定的な証拠となる。

犯行を裏付ける事実

 デヴリンが書いた本が、ポーリーのコートのポケットに入っていた。その本の見返しにデヴリンの署名があった。デヴリンが署名する前に、ポーリーは「我らのみ(Ourselves Alone)」と書いていた。
 デヴリンは、イギリスの監獄からのがれてアメリカにきた。「我らのみ(Ourselves Alone)」はアイルランド過激派の合い言葉だった。
 ポーリーの死体のすぐそばに、「アイリッシュ・デュー」のボトルがころがっていた。ボトルは机のうえに元々あった。ポーリーの持ち物から書類が一切なくなっていた。金やクレジットカードはとられていなかった(物取りの仕業ではない)。ポーリーは銃器がつまった専用鞄をもっていた。ポーリーは「アイリッシュ・デュー」をわざわざ酒屋に買わせにやっていた。ポーリーは糖尿病のため酒はのまない(犯人のために酒を買いに行かせた)。デヴリン行きつけのアイリッシュパブで、デヴリンの「アイリッシュ・デュー」のボトルがでてきた。
 オコンネル邸に行ったらデヴリンがいた。ポーリーはもぐりの武器商人で、北アイルランドにも武器を密輸していた。
 ポーリーがのこしていたメモ「LAP213」は埠頭の住所(Los Angeles Pier 213)だった。そこにはデヴリンもきていた。そこからでる船の積荷はベルファストへはこばれる。
 マイクル=ドーランという死刑囚がのこした「正義の詩」が、デヴリンの思想のルーツであった。マイクル=ドーランはアイルランドのテロリストだった。デヴリンは、少年のころアイルランドでダイナマイトをはこんでいた。
 ポーリーの殺害現場にあったボトルには、デヴリンのボトルとおなじダイヤモンドの引っかき傷があった。デヴリンには、酒を飲む前にボトルに引っかき傷をつける癖があった。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 貨物船がゆっくりとすすんでいく。銃はもう海の上だ。それを見て安心したデヴリンはコロンボに言う。
「僕は信念に基づいて、銃を仕入れた。後悔はない(I bargained for the guns. I’ll stand by my bargain. No regrets)
 しかしそのとき、急にサイレンの音がする。ヘリコプターと高速艇が貨物船をおう。デヴリンはおもわず立ちあがる。
「沿岸警備隊が出てきました。船を止めるんですよ(That’ll be the Coastguard, sir. They’ve stopped the ship)」(コロンボ)
「知ってたのか(You knew)」(デヴリン)
 コロンボは、タグボートについていた旗がオコンネル工業のマークであることから、タグボートはオコンネルの持ち船であり、銃はそこにつんであることに気がついた。
 彼らが密輸出しようとした銃は、貨物船が外海にでたときに、タグボートからつみかえる計画だったのである。

解説:推理と対決のゲームがおわる

 殺されたポールが、デヴリンが書いた本をもっていたので、コロンボはまずデヴリンの家に行く。そして、ピンボールをはじめる。
「いやー、さすがだ。やっぱりあなたの勝ちですね(Oh, look at that, sir. It looks as if you’ve beaten me)」(コロンボ)
「なに、単なるつきですよ。刑事さん(It’s all a matter of luck, Lieutenant)」(デヴリン)
「いやー、あなたはつきで勝負する方じゃありませんよ。タイプがちがいます(Oh, I doubt that you depend upon luck, sir.  You’re not that kind of man)」(コロンボ)
 こうして二人の対決がはじまる。
 次は、ポールが殺害されたホテルのツインルームで、二人で連想ゲームである。ポールがのこしたメモ「LAP213」とは何をあらわしているのだろうか。
 そのご二人はアイリッシュパブに行き、ダーツできそいあう。コロンボは、
「これは、ギルフーリー巡査部長の冥福をいのって(This is for the sainted memory of Sergeant Gilhooley)」
と言って、見事に的の中心を射抜く。今度はコロンボの逆転勝ちである。その直後、デヴリンの「アイリッシュ・デュー」のボトルが出てくる。ポーリーが買いに行かせたのとおなじ酒である。デヴリンは一瞬あせる。
 次は、港であるきながら、連想ゲームのつづきだ。「LAP213」の「P」は埠頭のことであった。
 その次は、酒をのみながら五行詩(リメリック)の応酬である。一・二・五行目が韻を踏み、三・四行目が別の韻を踏んだ五行詩をおたがいに言いあう。知恵くらべは互角の戦いとなり、どちらもゆずらない。しかしコロンボは最後に予言する。
「フィネガンという名の小悪党
 牢屋をにげだして よからぬことに一辺倒
 悪事なら何でもお手のもの
 人のものは全部自分のもの
 またつかまったときは りっぱな大悪党」
(There once was a fella named Finnegan,
 who escaped from a jail so to sin again.
 He broke laws by the dozen,
 he even stole from his cousin.
 So the jail he broke out of, he’s in again.)
 その後コロンボは、「アイリッシュ・デュー」のボトルに引っかき傷があることに気がついた。デヴリンはいつも、
「ここまで、ここをすぎず(This far and no farther)」
と言って、その日に飲むところまで、ダイヤの指輪で印をつけるのだ。ポーリー殺害現場にあったボトルにもおなじ引っかき傷がのこされており、これがデヴリンの犯行を裏付ける決定的な証拠となる。
 また、その「アイリッシュ・デュー」のボトルには、
「人にはふさわしき贈り物を(Let Each Man Be Paid In Full)」
と書かれたラベルが貼りつけてあり、それが死体のそばにころがされていたことから、ポーリーへの贈り物が「死」だったことがわかる。実は、ポーリーの死は単なる殺人ではなく、ポールは取り引きを裏切ったために「処刑」された。裏切り者にふさわしい贈り物が「処刑」だったということである。
 こうして、ポール殺害が「処刑」だったとかんがえると、ポール殺害の背後にはもっと大きな犯罪、すなわち武器の密輸出が存在することが理解できる。「処刑」はまさにこの事件の核心でありキーである。核心とは、様々な情報が圧縮されたポイントであり、そこをおさえれば事件の全容を見通すことができる。そこには事件のすべてがふくまれていると言ってもよい。
 そしてコロンボは、貨物船の出航を止めようとするが、すでに出航してしまっていた。そこで車で船をおいかけ、今度は望遠鏡でのぞいて見る。目をこらす。綿密に。すると、タグボートにはオコンネルの旗がついているではないか。
 こうして、デヴリンとの最後の対決にいたるのである。
 コロンボは、ピンボール、連想ゲーム、ダーツ、五行詩と、ゲームをたのしみながらデヴリンとの対決をくりかえしてきた。また同時に、事件の推理をすすめた。対決をしながら推理をすすめ、推理をすすめながら対決をした。この過程では、対決の中に推理があり、推理の中に対決がある。対決即推理、推理即対決と言ってもよい。対決と推理の分かちがたい一体性のなかにコロンボの能力の本質がある。
 そして対決と推理は、事件の決着にむかって見事に収束し、クライマックスとなる。
「オコンネル夫人の刺繍を見ていなかったら、気づかずにすんじゃうところでしたよ。まあ、私もついてたんですねぇ(I never would have figured it out if it wasn’t for Mrs. O’Connell’s needlepoint. I guess it was just dumb luck)」(コロンボ)
「いや、それは単なるつきではないな。ギルフーリー巡査部長もそう言っただろう(No, it’s never just luck, Lieutenant. Didn’t your Sergeant Gilhooley teach you that?)」(デヴリン)
「いやー、そうは言いませんでしたが、眼力が大事だと言いました(Now that you mention it, sir, he did tell me to keep my eyes open)」(コロンボ)
コロンボは、今は亡きギルフーリー巡査部長から「眼力が大事だ」とおそわっていたことをここではじめて明かした。コロンボの底力は「眼力」にあり、コロンボのあらゆる能力は「眼力」がささえていたのだった。
 最後に、デヴリンはコロンボにボトルをさしだし、一緒にやらないかとさそう。
「そうですね。じゃ、いただきましょうか。ここまできたんですからねぇ(Well, maybe I will after all, sir. Now that we’ve come this far)」
コロンボはそうこたえると、ボトルに線をひく。
「ここまで、ここをすぎず(This far… and no farther)」


tanokura.net 2005年12月25日発行
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