推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
43.秒読みの殺人 “MAKE ME A PERFECT MURDER”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 ケイ=フリーストーンが、映写室にもどってきて、フィルムをチェンジする。

DVDチャプターリスト

(1)有能なアシスタント (2)4分間の犯行 (3)警部はムチ打ち (4)映写技師の証言 (5)テレビ局の楽屋裏 (6)お荷物スター (7)ケイの生き方 (8)ビーチハウスの手掛かり (9)番組差し替え (10)“ザ・プロフェッショナル” (11)立派なデスク (12)“君は社長じゃない”

犯行の動機

 テレビ局CNCの西部支局長マーク=マキャンドリュー(被害者)と彼のチーフアシスタント・ケイ=フリーストーン(犯人)は愛人関係にあった。
 ある日、ニューヨーク本社からマークに電話があり、彼は本社に栄転することになった。しかしマークは、ケイとの関係をこれでおわらせようとし、それだけでなく、ケイを自分の後任にするつもりもないと言う。
 ケイは、愕然となり、マークをゆるすことなど到底できなかった。

コロンボはいつどこでピンときたか

 テレビ局で、事件の現場(マークのオフィス)をしらべたとき。
 犯人は、マークのオフィスに約6メートル入ったところで銃を撃っていた。そのときマークは、撃たれたとき遠近両用眼鏡をおでこのところにあげていてかけていなかった。これらのことから、犯人はマークの顔見知りであったと推理できる。マークの部屋に入ってきた人が、マークがよく知っていた人物だったからこそ、マークは眼鏡をかけて確認する必要がなかったのである。
 マークのもっとも親しくしていた人間は、チーフアシスタントのケイである。事件の翌日、ケイが出勤してきたら、すぐにマークの部屋にきてもらう。

犯行を裏付ける事実

 事件当日、ケイは、テストフィルムを重役たちに見せようとしていたが、主演はすでに決まっておりテストフィルムは必要なかった(ケイは、死んだマークの指示でやったと言った)。
 テレビ局の重役のフラナガンは、マークがおせばケイを支社長にすると言っていた(マークはケイを推薦していなかった)。マークがのこしたメモに「K」としるされていた。マークはケイに高級車をおくっていた(プレゼントをおくって二人の関係を清算しようとした)。マークのビーチハウスに女性用のブレザーがとどけられた(マークとケイが愛人関係にあったことが発覚した)。
 映写技師は、事件当夜、映写室にもどった直後、『ザ・プロフェッショナル』の頭を撃ちぬくシーンを見た。頭を撃ちぬくシーンは<キュー・パンチ>がでた直後だった(事件当夜、ケイは、映写技師がもどる直前にフィルムチェンジをおこなったことになり、ケイのアリバイはくずれる)。映写室におちていた手袋から硝煙反応がでた。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 コロンボは、テレビ局のエレベーターの天井を撮影したビデオを再生してケイに見せる。
 まず、拳銃を下から見える位置におく様子がうつしだされる。次に、ケイがひきかえして、もう一度エレベーターにのりこんで、おりたあとの映像を見ると、そこには、あるはずの銃がなくなっている。これは、ケイがとったことをしめしている。
「だが撃った銃はここにある(This is the gun that you murdered him with)」(コロンボ)
 ビデオにうつっていたのはダミーの銃であり、犯行につかわれた銃はすでに発見され、回収されていたのである。ケイはそれが罠だと知らずに、ダミーの銃を自分がかくした銃だとおもいこんで処分してしまったのである。

解説:ワンサイドゲーム

 このエピソードでは、コロンボの捜査に対する姿勢をコロンボ自身がケイにかたっている
「こんなちょっとしたことでも引っかかりになるんですよ。まるでかすかな声が耳元でホシの名をおしえてがっている感じでしてね(How you can work these small things out if you just think about it. Like you got a tiny voice, whispering right in your ear, trying to tell you who did it)」(コロンボ)
「それをじっとお聞きになろうとするわけね(You’re a very attentive listener, Lieutenant)」(ケイ)
「まさにその通りです。それしか手がないんですから。よく見よく聞く。それだけです(Oh yes, ma’am, that’s all we got to go on. Listen and look, look and listen)」(コロンボ)
 コロンボによれば、「かすかな声」がむこうから聞こえてくるということだ。つまり、もとめている情報はむこうからやってきて、それによって推理がすすむ。まるで情報に意志があるかのようだ。情報はみずからつくりだすものではなく、すでに存在し、そしてやってくる。問題は、それをキャッチできる態勢があるかどうかである。コロンボにはその態勢ができている。コロンボは状況を素直にうけいれ、おのれを空しくし、現場の声にしたがって捜査をすすめる。すると真相が自然にうかびあがってくる。テレビの修理屋で『ザ・プロフェッショナル』を見たことから、ケイのアリバイをくずしていくプロセスなどは、重要な情報が自然にあつまり推理がすすんだ例である。
 しかしケイはちがった。
「あなたはすばらいい方ね。事態を素直にうけいれて。でも私はちがったわ(You’re a very special man, Lieutenant. You accept things as they are. I try to change them)」(ケイ)
 コロンボは事態を素直にうけいれるが、ケイは、それとは正反対に自分を全面におしだし、あくまでも我を拡大して目的を達成しようとする。また、それが成功することだとおもっている。コロンボとケイは対照的である。
 しかし、コロンボの捜査はすべてうまく行き、ケイの犯行は簡単にあばかれてしまった。今回の事件ではコロンボは行きづまることはなかった。動機もあきらかになり、状況証拠も十分にあり、決定的証拠もおさえた。コロンボは、観察力・推理力・構想力のあらゆる点において犯人を圧倒しており、このエピソードは、コロンボのワンサイドゲームになった。


tanokura.net 2005年12月25日発行
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