推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
39.黄金のバックル  “OLD FASHIONED MURDER”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 ミルトン=シェイファーが美術館の展示品をぬすんでいる。

チャプターリスト

(1)10万ドルで泥棒を (2)二重の射殺 (3)古風な姉妹 (4)暗い現場 (5)幸せそうな肖像 (6)警部のヘアカット (7)純金の紛失物 (8)ジェニーへの差し入れ (9)古風な犯人

犯行の動機

 かつての名門リットン家が経営するリットン美術館は赤字がつづき財政難におちいっていた。リットン美術館は、ルース=リットン(犯人)が館長をつとめ、彼女の弟で美術館理事のエドワード(被害者)が財産の管理・運営をおこなっていた。
 エドワードは、ルースのやりかたでこのままつづけていても先はないので、美術館を閉鎖しようとかんがええていた。エドワードはルースに、こんな美術館などあきらめて売りにだせば、巨額な金が手に入り、みんなもっと楽にくらせると言いだし、すでに目録整理をはじめていた。
 ルースとエドワードには姉のフィリスがいた。美術館については、兄弟3人の多数決で決めることであるが、エドワードは、フィリスも今度こそ賛成するにちがいないと言う。
 しかしルースは、この美術館一筋で生きてきた人間であり、美術館を手放すことは絶対にできなかった。

コロンボはいつどこでピンときたか

 美術館で、エドワードがのこした目録づくりのテープを聞いたとき。
 そのテープには、2週間前にぬすまれたとルースが言った「黄金のバックル」についても録音されていた。しかし、このテープが録音されたのは事件がおこった日であり、2週間前ではない。ルースは嘘をついていた。

犯行を裏付ける事実

 美術館内の犯行現場は真っ暗で何も見えなかった(犯行後、誰かが電気をけしたのではないか)。
 ミルトン=シェイファー(被害者)は、ぬすんだ展示品をカバンに入れていたが、ペンダント1個だけは自分のポケットに入れていた(展示品は誰かにわたすことになっていたが、ペンダントだけは自分のものにしようとしていた)。
 シェイファーは、新品の靴をはいていて、新品の服をきて、しゃれた時計をつけ、散髪をし、マニキュアをつけ、予防注射もしていた(シェイファーは、どこか外国へ旅行するつもりだったらしい)。
 ルースの姪ジェニーの部屋で見つかった「黄金のバックル」をジェニーに見せたが、ジェニーはそれが何だかわからず灰皿につかった(「黄金のバックル」をぬすんだのはジェニーではない)。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 コロンボは、エドワードが4月30日に録音した目録づくりのテープを再生する。
「ラージサイズの金のバックル、青銅器時代、8センチに11センチ(Large, gold belt buckle, Bronze age, three and a half by five inches)」
 ルースは、「黄金のバックル」が2週間前にぬすまれたと言ったが、実際にはそのときは存在していたのである。この「黄金のバックル」はその後ルースがぬすんでジェニーの部屋にかくしたのであった。
 そして、
「私がパパ(ジェニーの父親)を殺したなんていうのは嘘ですよ。わざと嘘をついたんでしょ。はっきりと(ジェニーに)言ってやってください(It wasn’t true what he told you about my killing your father. You lied about that, didn’t you? Tell her it wasn’t true)」
とルースはコロンボを問いつめる。
「おっしゃる通り、嘘です。根も葉もない嘘ですょ(Yes, ma’am. It wasn’t true. I lied about that)」
と、コロンボは返答を選択する。
 ルースは、コロンボの言葉を聞いて納得し、今回の犯行を素直にみとめ立ちあがった。

解説:被害者のメッセージをつかむ

 発見されたときの状況から、シェイファーは旅行にでかけようとしていた。また、エドワードとシェイファーが死んだあと、誰かが部屋の電気を消した。その誰かが犯人であり、シェイファーは、その犯人と何らかのたくらみをしていたが殺されてしまったにちがいない。
 また、シェイファーは「2度まわす、真夜中すぎにすぐ」というメモをのこしており、腕時計のカレンダーを、4月30日の夜中すぎに、針を24時間まわして5月1日にしていた。つまり、シェイファーが殺されたのは30日の9時すぎだとされているが、実際には、夜中すぎまで生きていたのである。シェイファーは誰かに命令されて、アリバイを提供しようとしたことになる。
 コロンボはこのような推理をしながら、エドワードがのこした目録づくりのテープと、シェイファーの留守電の伝言テープをくりかえし聞いていた。
「ふたりとも死んじゃった。なのにこれ、ふたりとも、何か私に言いたがっているようだ。こいつもう一遍きいてみたいんだよ。何かつかめるはずなんだ(Both of them dead. And both of them, you know, like they were trying to tell you… I just wanna hear this tape again. What is it I can’t hear?)」(コロンボ)
 コロンボは被害者がのこした言葉を丹念に聞きながら、彼らがつたえようとしているメッセージをつかもうとした。彼らはいったい何を言おうとしているのか。そのメッセージは、言葉で直接きけるわけではない。直接きける言葉や直接みることができる事実を総合して、その背後にある真相を読みとらなければならない。そもそも言葉とは、言葉になる以前のメッセージを言葉にしたものである。表面的な言葉よりも、その背後にあるメッセージをつかみとることの方が重要である。そして「黄金のバックル」の存在とその移動に気がつくことになったのである。
 コロンボはさらに、ルースは昔、婚約者ピーター=ブラント(ジェニーの父親)が姉フィリスと駆け落ちしてしまったことによりふかく傷つき、それですべてをうしない、のこったのは美術館だけになってしまったことも知った。
 それだけでなく、ピーターとフィリスが駆け落ちしたときに、フィリスはすでに妊娠3ヵ月だったことから、ルースは自分が裏切られていたことに気がつき、のちにピーターを殺害したと推理した。ここでもコロンボは死者のメッセージを読みとった。
 しかし、ルースが今回の犯行を自白することとひきかえに、過去の殺人は、永遠に闇の中にほうむりさられる結果になった。


tanokura.net 2005年12月25日発行
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