推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
27.逆転の構図  “NEGATIVE REACTON”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 ポール=ガレスコが、農家の中で夫人をしばりつけて写真を撮影する。

DVDチャプターリスト

(1)15年目の才能 (2)偽装の誘惑 (3)モーテルの手掛かり (4)使われなかった写真 (5)警部のコート (6)銃声の問題 (7)墓地で・・・ (8)なぜタクシーを使ったか? (9)構図のセンス (10)写真集の囚人 (11)路上テスト (12)決定的な証拠

犯行の動機

 カメラマンのポール=ガレスコ(犯人)は、妻フランシス(被害者)に、この3年間、猿回しの猿のようにつながれ、妻の曲にあわせておどらされるような生活をしいられていた。フランシスは、支配欲ばかりがさかんな口やかましい女であり、ガレスコは、人生のすべての楽しみをうばわれていた。
 妻からのがれるためには、もはや、妻に死んでもらうしかない。ガレスコは、あたらしく買った農家をみせると言って妻をつれだす。

コロンボはいつどこでピンときたか

 出所したばかりのダシュラーが射殺された廃車場で、ガレスコが、ダシュラーを射殺したことをホフマン刑事から聞いたとき。
 ガレスコ夫人(被害者)の行方がしれないのに、どうしてすぐに射殺してしまったんだろう。普通なら、夫人の居場所をたしかめようとするはずである。ガレスコの行動は不自然だ。ガレスコがあやしい。

犯行を裏付ける事実

 ガレスコ夫人(被害者)が殺害された農家の中においてあった時計は最近おかれたものである。しばられたガレスコ夫人のできそこないの写真が農家の暖炉の中にすててあった。ダシュラー(被害者)は他人にたのまれてその農家をかりていた。
 ダシュラーが廃車場で射殺されたとき、2発の銃声の間にやや時間があった。ダシュラーは至近距離から撃ったのに、ガレスコ(犯人)はややはなれて撃った。
 ダシュラーは出所したばかりなのに、いい仕事の心当たりがあると言っていた。
 事件当日、ガレスコは午後5時にダシュラーに会うことになっていたが、実際には、5時半ごろに会った(夫人をすくわなければならないのに、どうして5時きっかりに行かなかったのか)。ガレスコは、ダシュラーに会うまえに電話ボックスから連絡するように言われたため時間におくれたと言ったが、その電話ボックスの場所はおぼえていなかった。ガレスコは、ダシュラーからの電話をうけたとき、身代金の金額はメモしたが、指定された電話ボックスの場所はメモしていなかった。
 ダシュラーは、事件当日の午前中に運転免許の試験をうけて合格し、レンタカーをかりていた(試験にもしおちたならどうする気だったのか。もしダシュラーが犯人なら、このような無謀な計画はたてなかったはずである)。農家にすてられていた写真は露出や構図が悪かった(犯人にはカメラの腕があった)。ガレスコの写真集にダシュラーがうつった写真が9枚もあった(ガレスコはダシュラーを知っていたにちがいない)。
 ダシュラーがとまっていたモーテルの部屋に、脅迫状をつくったときの新聞の紙くずや切れっ端がまったくのこっていなかった。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 コロンボは、ガレスコに、特大にひきのばした写真を見せる。そこには、しばられたガレスコ夫人が時計とともにうつっている。その時計の針は午前10時をさしている。午前10時は、ガレスコが夫人と2人きりでいたと証言した時刻である。
 しかしガレスコは反論する。
「君はひきのばすとき裏焼させてしまったのさ。時計は10時ではない。本当は2時をさしているんだ(You have taken that picture and have reversed it. The clock doesn’t say 10, says 2 o’clock)」
「しかし、とにかくこれは証拠です。作業にもミスはなかった(No, I’m afraid this is the picture. And there’s been no mistake)」
「がっかりさせて気の毒だが、君は依然として僕の無実の証拠をにぎっている。ネガさえあれば目的は達する(I hate to disappoint you, but you have proof of my innocence, despite your clumsiness. The negative will serve the same purpose)
 そしてガレスコは、棚にならんだ何台ものカメラの中から1台のカメラをとりあげる。
「そう、奥さんをとったのはこのカメラです。どうしてそれがわかったんでしょうね(Yes, this is the camera that was used to take your wife’s picture. But you would have no way of knowing that)」
 ダシュラーは、自分が知らないはずのカメラをとりあげてしまったのだ。彼のこの行動が決定的な証拠となった。
 実はコロンボは、わざと、構図が逆転するようにネガを逆にして写真を焼いて、時計の針が10時をさすようにしておき、ガレスコにそのカメラをとらせるように仕組んだのであった。コロンボは、ガレスコが、夫人を撮影したカメラをとりあげると確信していたという訳である。

解説:逆の見方をする

 ロサンゼルス警察本部でホフマン刑事はコロンボに言う。
「すこしねむったらどうです。ヒゲでもそって。帰って手足をのばしなさいよ。どうせ結論は出てるんだし(Now you could use some sleep and a shave. Why don’t you go home and sack out. You got this case locked up)」
 また、別の同僚も言う。
「この件についてはうたがう余地はなかろう・・・うごかぬ証拠だらけだぞ。何がひっかかる(You won’t find any loose ends on this one…  What else do you need?)」
 コロンボ以外の刑事は見かけや常識にとらわれ、事件は解決済みだとおもいこんでしまっている。
 普通の人が、見かけや常識にとらわれてしまうことは、コロンボが教会の救済所へ行ったときのシスターの反応からもうかがえる。
「ようこそ、兄弟。私の家はあなたの家です。まあそのコート。それではいくらなんでもねえ。人間の価値はお財布の中身によって決まるのではありません。さ、どうぞ。お食事がすんだらご相談しましょう、ね(Welcome, Brother. My house is your house. Oh, that coat… that coat, that coat, that coat. A man’s worth is not judged by the size of his purse. Please, your food. Come. And when you’re finished, we’ll have a little talk, all right?)(シスター)
「あ、あの、ご親切はありがたいんですけれども。このコートもう7年もきておりまして(You know, I appreciate what you’re doing, I really do. But I’ve had this coat for 7 years)」(コロンボ)
「まーぁ、お気の毒にねぇ(Oh, you poor man)」(シスター)
「本当は私、警察関係の人間でして、コロンボともうします(I’m from the police force, ma’am. My name is Lieutenant Columbo)」(コロンボ)
「あーぁ、そうでしたの。それじゃつまり変装して、お仕事中で。いえ大丈夫。変装のことは誰にも話しませんから(Oh, I see. You mean you’re working undercover. And don’t worry, I won’t tell a soul about your disguise)」(シスター)
「すみません(Thank you)」(コロンボ)
 最初シスターは、コロンボのよれよれのコートをみて、お金のない人がやってきたとおもいこんだ。コロンボが警察関係の人間だと言うと、今度は変装しているのだとおもいこんだ。
 これらのように、普通の人は、見かけや常識にとらわれ、すぐにおもいこみをして判断をあやまってしまう。
 しかし、コロンボはちがう。普通の人とは逆に、見かけや先入観にはとらわれず、人とはちがう観点にたって、決して見落としはせず、ひらめきを大切にする。
 このような姿勢から「逆転の構図」の発想がでてきた。実に見事な「逆トリック」であった。コロンボは、普通の人とは逆の見方ができる人間であり、おどろくべき「逆転の発想」の持ち主である。これが、しばしば見事な事件解決をもたらすのである。


tanokura.net 2005年12月25日発行
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