推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
25.権力の墓穴  “A FRIEND IN DEED”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 マーク=ハルプリンが、ヘリコプターにのって市内を警備する。

DVDチャプターリスト

(1)ロス警察本部次長の立場 (2)ささやかな疑問 (3)犯罪多発地区 (4)警部と上司 (5)ヘリからの目撃者 (6)ホシはプロか? (7)「誰にも間違いはある」 (8)模造宝石 (9)「これは命令だ!」 (10)盗人の面汚し (11)容疑者の書類 (12)108号室作戦

犯行の動機

 ロサンゼルス警察次長のマーク=ハルプリン(主犯)は、夫人(第2被害者)が、巨額な財産を慈善事業にそそぎこんでいることをゆるせないでいた。何とかして、夫人の財産を自分のものにしたい。
 そんな折、ちかくにすむ友人のヒュー=コードウェル(共犯)が相談におとずれた。外出しようとしていた夫人のジャニス(第1被害者)と言いあらそいをし、あやまって彼女を絞め殺してしまったと言うのである。
 マーク=ハルプリンは、この殺人事件を利用して、自分の夫人を殺害する計画をすすめていく。

コロンボはいつどこでピンときたか

 ロサンゼルス警察の次長室で、ハルプリン夫人からも話を聞いたことを、コロンボが、次長のマーク=ハルプリンにつげたとき。
 ハルプリンは、いそいで家にかえろうとしており、ドアのところまで行っていたが、急にもどってきてコロンボの話に反応した。
「君、家内と会ったのかね(You, uh, spoke to my wife, did you?)」(ハルプリン)
「あれ?おわすれもの?それとも何か?(I thought you left. What was that, sir?)」(コロンボ)
「家内と話したのか?(I said, you spoke to my wife?)」(ハルプリン)
 この行動は不自然だ。次長には何かあるにちがいない。

犯行を裏付ける事実

 コードウェル夫人のジャニスの枕の下にピンクのナイトガウンが入れてあったが、ジャニスはブルーのナイトガウンを着ていた。ジャニスには、夜に着るナイトガウンを枕の下に入れる習慣があった。衣装戸棚の取っ手にジャニスの指紋がついていなかった(ブルーのナイトガウンを衣装戸棚から出したとしたら指紋がついているはずだ。枕の下にガウンがあることを知らない誰かに別のガウンを着せられたのではないか)。
 次長のマーク=ハルプリンは、ハルプリン夫人もジャニスを殺害した犯人を目撃したように言っていたが、実は夫人は見ていなかった。ハルプリンは、最初の事件の晩、はじめから殺人課の刑事(コロンボ)をよんだ(どうして、強盗だけでなく殺人があったことがあらかじめわかったのだろうか)。
 コードウェル邸の電話にジャニスの指紋がまったくついていなかった(夫からの電話に出たのならついているはずである)。ジャニスのボーイフレンドが夜9時半に電話したときはジャニスは出なかったが、10時半の夫からの電話には出た(9時半にはすでに死亡しており、10時半の電話はインチキである)。ジャニスがもっていた宝石はほとんどが模造品だった(プロの窃盗であればすぐに気がつき、ぬすまない)。
 殺害されたハルプリン夫人は、袖がやぶけた服を着ていた(昼間に、サボテンのトゲにひっかけた。外出するのにやぶけた服は着ないはずである)。ハルプリン夫人の肺から石鹸が検出された(ハルプリン夫人は浴槽で死亡した)。ハルプリン邸の浴槽やその周辺が完全にかわいていた(浴槽で死亡してからかなり時間がたっていた)。
 ハルプリンがとりおさえた窃盗常習犯アーティにはアリバイがある。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 窃盗常習犯のアーティは、夫人殺しを暴露すると言ってコードウェルを脅迫する。その取引現場で、次長ハルプリンはアーティをとりおさえ、その後、彼のアパートの家宅捜索をはじめる。すると、ジャニスの宝石が発見される。
 しかしそこは、
「アーティの部屋じゃない。あたしのです(He doesn’t live here. I live here)」(コロンボ)
「だが、あの住所はどうしたんだ(The file folder, the… the report on the desk)」(ハルプリン)
「偽造したわけです。あたしのほかにこの住所を知っているのはたった1人だけ。つまりあなたですよ(I made up a new file folder on Mr. Jessep. Only one person beside myself knew this address. That was you, sir)」(コロンボ)
 そこは、何とコロンボの部屋だったのである。
 共犯のコードウェルをアーティに脅迫させ、アーティの住所をハルプリンが知れば、ハルプリンは、アーティに罪をきせるために細工をするにちがいないとコロンボは読んでいた。ハルプリンは、コロンボの罠にまんまとはまり、みずからがぬすんだジャニスの宝石をコロンボの部屋にかくしてしまったのである。

解説:行動を予見する

「われわれのさがしている人物は、れっきとした殺人を泥棒の居直りと偽装した人物です(We’re looking for somebody… somebody who tried to make a… Murder look a burglary)」(コロンボ)
 コロンボは、夫人がナイトガウンを枕の下に入れる習慣をコードウェルが知っていたことから、コードウェル夫人にナイトガウンを着せた別の人物がいるという仮説をまずたてる。さらに、コードウェル夫人のボーイフレンドの証言から、9時半にはコードウェル夫人はすでに死亡していたという仮説をたてる。そして、これらを総合すると共犯者がいたという仮説がたつ。
 コロンボの頭の中では、疑問が仮説に成長する。仮説がたつと、目標(ターゲット)が明確になる。ポイントがシャープにさだまってくる。
 そして、
「たすけてくれないか。あたしはホシの目星はだいたいつけてる。だけど立証できなくてね(You can help me. I think I know who killed those two women. But I can’t prove it)」(コロンボ)
 コロンボは窃盗常習犯のアーティに協力をもとめる。コロンボの頭の中では、仮説が、犯人逮捕の構想にむすびついていく。警察本部次長という大物を逮捕するためにはかなり大きな仕掛けが必要である。
 そして、アーティではなくコロンボの部屋で、
「あなたが泥棒の身元をわかったら、きっと細工するとおもったんです(I was sure that once you knew the true identity of the burglar, you’d try and incriminate him)」(コロンボ)
 コロンボは、犯人の行動を完全に予測していた。
 コロンボがハルプリン逮捕の構想をねる段階では、ハルプリンが、宝石強盗の線で捜査をすすめるようにという命令をだしていたことが重要な前提になっている。彼は、宝石泥棒に罪をきせようとしている。したがって、宝石泥棒がかかわる罠を仕掛ければかならず反応するはずである。
 コロンボの頭の中では、疑問が仮説に成長し、仮説が構想へと発展している。コロンボは、しだいにストーリーの全容をつかんでいく。実際には見ることができなかった部分もおもいえがくことができる。そして、ストーリーの流れを未来にむかって流していく。ストーリーの延長として犯人の行動が予見できる。つまり、コロンボは未来をも読んでいる。それが、衝撃の結末をもたらすのである。


tanokura.net 2005年12月25日発行
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