推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
23.愛情の計算  “MIND OVER MAYHEM”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 人工頭脳学研究所のロボットがタイプをうつ。

DVDチャプターリスト

(1)人口頭脳学研究所 (2)パイプの行方 (3)警部の愛犬 (4)シンクタンクは天才だらけ (5)スティーブン・スペルバーグ少年 (6)フィンチのファイル (7)告白 (8)ロボットMM7 (9)父と息子

犯行の動機

 人工頭脳学研究所の化学者であるハワード=ニコルソン(被害者)は、同所所長のマーシャル=ケーヒル(犯人)の息子ニールが、論文の盗用をしていたことを知っていた。
 ケーヒルの息子ニールは、今年最高の科学者として賞を受賞することになっていたが、ニコルソンは、論文盗用の事実を公表し、受賞を辞退するようにケーヒルにせまり、もし公表しないなら自分が暴露すると言いいだす。そして、
「ニール自身が告白しないかぎり、世界のどんな強力な権力をもちいても私をだまらせることはできん(Well, if Neil himself does not confess, there is no power on earth that could induce me to keep the lid on this)」
と言ってたちさっていく。
 息子を愛するケーヒルはおいつめられ、ニコルソンの殺害を決意する。

コロンボはいつどこでピントきたか

 人工頭脳学研究所の敷地内にあるニコルソンの研究室の前で、同所所長のケーヒルが、内ポケットから葉巻をとりだしたとき。
 殺されたニコルソンはパイプをすっていて、パイプ用のライターをもっていた。しかし、犯行現場の灰皿にはマッチ棒がのこされていた。そのマッチ棒は、てっぺんから根元までが燃えていた。犯人は葉巻をすう人間である。ケーヒルがあやしい。

犯行を裏付ける事実

 犯行現場のドアに靴墨の跡がのこされていた(死体はうごかされた)。ニコルソン(被害者)の研究室(ガレージ)の前の道にパイプタバコの破片がおちていた(車にひかれたようだ)。検死報告では、ニコルソンは内臓破裂などの典型的なひきにげの症状だった。
 メーター表示があわない車(助手ロスの車)がある(そのメーターは5kmだけ記録より多く、駐車場と犯行現場との往復距離がちょうど5kmである)。その車にケーヒルが自分の車をぶつけた。助手のロスは背が低い(ドアにのこされていた靴墨の跡の高さとあわないため、犯人ではない)。
 ニコルソンのファイルボックスからフィンチのファイルがなくなっていた(ニールはフィンチの論文を盗用していた)。
 人工頭脳学研究所のロボットはタイプをうってコンピュータを操作できる(ケーヒルのアリバイはくずれた)。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 所長ケーヒルの目の前で、彼の息子ニールを殺人容疑で逮捕した。すると、ケーヒルはコロンボの後をおってきて、犯行を自供した。
 コロンボは、ケーヒルが息子を愛するあまり、ニコルソン殺害にいたったことに気がついていた。息子が逮捕される姿を見れば自供するはずであるとおもい、ニール逮捕の芝居をうったというわけである。

解説:計算して解をえる

「あたらしい証拠がでるたびにデータにくわえておくんだ。そうすればきっと答えがでるよ。そのあいだ、僕はこのデータの再編成をやってみる。可能な組み合わせは何百とあるもんね(I’ll keep adding any new evidence you turn up to this docket. Maybe something finally will compute. Meanwhile, I’ll keep on resequencing this data. These must be hundreds of possible combinations)」(スティーヴ)
「そりゃありがたいけれども、研究の邪魔しちゃ悪いからね(I appreciate that Steve, but I don’t want to keep you from your work)」(コロンボ)
「いいさMM7にやらせるもの(That’s okay. I’ll program MM7 to do it)」(スティーヴ)
「するっていうとあのロボットがコンピュータあつかえるの?(You mean the robot can operate this computer?)」(コロンボ)
「ああ、人間のやることなら何でもやっちゃうよ。そのようにプログラムしとけばね(Sure. I told you it can do almost everything a man can do. If you program it correctly)」(スティーヴ)
「そうか!いま計算が合ったんだよ(Oh. Something just computed)」(コロンボ)
 この、コロンボと天才少年スティーヴとの会話の中に、事件解決のためにおこなわれるコロンボの「計算」の様子が端的にしめされている。
 コロンボは、計算に計算をかさねていたが「解」が見つからなかった。しかし、「ロボットがコンピュータをあつかえる」というあたらしいデータが頭の中にインプットされたこの瞬間、「解」をえることができた。
 また、つぎのような場面もある。
「事件がもつれたときはかみさんと話をするんだよ。うちの奥さん、事件についちゃしゃべらないんだ。でもほかのありとあらゆることをしゃべりまくってくれる(When a case gets too tough I’ve got to talk to my wife. Actually, she doesn’t talk about the case. She talks about everything else. It takes my mind off it)」(コロンボ)
「ああ、それできりかえができるわけだ(Oh, so you are fresh when you come back?)」(スティーヴ)
 ただ「計算」をすればよいのではなく、行きづまったら別の観点から「計算」しなおすことが必要である。非常に重要なポイントである。
 このようにコロンボは、するどい観察をくりかえし、データを頭の中に次々にインプットし、解をえるために「計算」をくりかえしていく。コロンボの計算力は観察力にささえられたたしかなものである。しかも、その「計算」は、犯人逮捕にむけて段階的にすすめられるコロンボの犯罪捜査の過程で、それぞれの段階の内部において「計算」がたえずくりかえされるという仕組みになっている。
 このエピソードでは、人工頭脳をも上回るコロンボの計算能力の高さがよくあらわれていた。

 

tanokura.net 2005年12月25日発行
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