推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
20.野望の果て  “CANDIDATE FOR CRIME”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 ネルソン=ヘイワードに変装したハリー=ストーンが、駐車場を車で出発する。

DVDチャプターリスト

(1)政治家の犯罪 (2)イタリア系のお仕事 (3)毒は疑う (4)内々の話 (5)すべてオーダーメード (6)夫人の秘密 (7)警部の愛車 (8)テストドライヴ (9)気が散る録画 (10)銃声 (11)苦い勝利

犯行の動機

 上院議員候補ネルソン=ヘイワード(犯人)は数日後に投票日をひかえて選挙戦をたたかっていたが、選挙戦のさなかだというのに、彼には、リンダ(ヘイワード夫人の秘書)という愛人がいた。
 ヘイワードの選挙参謀ハリー=ストーン(被害者)は、ヘイワードとリンダに対しスキャンダルになるから別れるようつよくせまる。しかし2人は別れる気など毛頭ない。それどころか、ヘイワードはストーンを非常にきらっており、ストーンは邪魔な存在になっていた。こまかいことまでストーンの言いなりにならなければならないからである。
 ヘイワードは、リンダと別れ話をしに行くとストーンに嘘をつき、警察官や記者をまくために、彼に、自分の格好をさせてホテルから車で出発させる。

コロンボはいつどこでピンときたか

 ストーンが殺害されたビーチハウス(別荘)に行ったとき。
 ストーンはヘイワードの上着と帽子をかぶっており、犯人は、ヘイワードのあとを車でおってきて、ヘイワードだとおもってストーンを銃殺した、つまり人違いの殺人だと誰もがおもった。
 しかしコロンボは妙なことに気がつく。
 ストーンが殺害されたのは、こわれてとまっていた彼の腕時計から9時20分とされる。コロンボが現場に到着したのは10時である。まだそれほど時間がたっていないのに車をさわってみたところエンジンは冷えきっていた。本来なら車のエンジンはまだあたたかいはずである。しかも、現場は非常に暗く、うしろから車でつけてきて銃殺するのは無理である。

犯行を裏付ける事実

 犯行現場が暗かったため、銃殺のとき車のライトをつかった可能性もあるが、そうだとすると、ライトで相手をてらせる車の位置と、銃弾の発射角度をあきらかにした弾道検査報告との間に矛盾が生じてしまう。ストーンの車は60キロメートルも走ってきているので、すぐにエンジンが冷えることはありえない。
 ヘイワードの部屋に入ったリンダは予定表をとりにきたはずなのに、ヘイワードのデスクの上に予定表がのこされていた(ヘイワードとリンダは何をしていたのだろうか)。犯人は、「人違いではなく、はじめからストーンをねらったのかもしれない」という仮説をコロンボがのべたとき、ヘイワードは安心するどころかそれを否定した。ヘイワードは、ストーンに着せたのとおなじ上着をストーンが死ぬ6日も前に注文していた。事件当日のヘイワード夫人の誕生パーティの手配はストーンもリンダもおこなっておらず、ヘイワードがひとりでおこなった。
 犯行現場のビーチハウスのそばには電話は存在しない(殺害されたとする時刻の3分後に犯行をつげる電話が警察にあったことと矛盾する)。ストーンは、丈夫なものを身につけるようにしていたが、なぜか腕時計(殺害時刻をしめしていた)だけはこわれやすいものをしていた。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 投票日の夜、ヘイワードと彼の関係者はホテルにあつまっている。ヘイワードはひとりで奥の部屋に入っていく。その直後、爆音がひびく。
 ヘイワードは、壁と窓の弾痕をしめして自分をねらった犯人がいると言う。
 ところがコロンボは、ポケットから銃弾をとりだして見せた。
「あたしはこいつを壁からほりだしたんです。たったいま狙撃されたとおっしゃるが、その3時間前にほったんです(I dug this bullet out of that wall, three hours before you said that somebody fired it just three minutes ago)」(コロンボ)
 ヘイワードは、投票に行く前に電話をかけると言って一度部屋に入っていた。ここの電話は、電話をかけると隣の記者ルームの電話のライトもつくボタン電話になっている。しかしそのときライトはつかなかった。ヘイワードは部屋で一体何をしていたのだろう。
 それで、ヘイワードが投票にでかけている間にこの部屋をしらべたところ、弾痕がみつかったという訳である。この狙撃事件はヘイワードの自作自演だったのだ。

解説:犯人の矛盾をつく

 コロンボが犯行現場にかけつけたとき署長(上司)がすでにきていた。 
「コロンボ警部、話があるからいてくれ(Lieutenant Columbo, stay here. I want to talk to you)」(署長)
「ちょっと失礼します(Excuse me, I’ll be right back)」(コロンボ)
 コロンボは、署長の命令はそっちのけであちこちあるきまわり、観察と聞き取りをくりかえし、つぎつぎにデータをあつめていく。五感を総動員しているようだ。そしていくつもの矛盾点に気がついていく。署長が、部下から話を聞いているだけで何も観察しないのとは対照的である。
 そして、いよいよ犯人との対決がはじまる。コロンボはつぎつぎに事実をならべて、それらの間の矛盾を徹底的についていく。
 犯人は矛盾を解消しようとして葛藤する。葛藤していく様子は犯人の表情にはっきりとあらわれている。矛盾は、解消されない場合は葛藤を拡大し、人間をくるしめる。
 そして最後には、犯人はおいつめられて、狙撃事件の自作自演をおこなってしまう。ここまでくるともう滑稽である。くるしまぎれの行動で墓穴をほってしまった。「野望の果て」にまっていたのは自滅であった。
 このエピソードでは、コロンボはトリックを何も仕掛けていない。矛盾をつき、犯人をおいつめただけである。コロンボは待っていればよかった。犯人は何か変なことをやるにちがいない。コロンボはめずらしくソファーにねっころがっていた。


tanokura.net 2005年12月25日発行
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