推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
19.別れのワイン  “ANY OLD PORT IN A STORM”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 エイドリアン=カッシーニが、ワイン貯蔵庫の空調のスイッチを切る。

DVDチャプターリスト

(1)ワインセラーの使い方 (2)オークションとアリバイ (3)警部のデスク (4)海へ・・・ (5)火曜日の天気 (6)ワイナリー見学 (7)カベルネ・ソーヴィニョン (8)ワインの見分け方 (9)ポオの小説 (10)秘書は孤独 (11)警部のご招待 (12)最後の宴

犯行の動機

 エイドリアン=カッシーニ(犯人)は郊外でカッシーニ・ワイナリーを経営している。エイドリアンには腹違いの弟リック=カッシーニ(被害者)がいて、彼はカッシーニ・ワイナリーのオーナをつとめている。今は亡き彼らの父親は、エイドリアン(兄)には現金をのこし、会社はリック(弟)に相続させたのであった。
 ある日曜日、弟のリックがワイナリーにやって来て、金がいるので会社を売却すると言いだす。エイドリアンはこの会社に25年間もつくしてきたのであり、 そのようなことは絶対にゆるすことはできない。口論の末、エイドリアンはリックの後頭部を一撃する。リックは床にたおれ意識をうしなう。
 その後エイドリアンは、リックをワイン貯蔵庫に はこび、ロープで手足をしばる。そして空調装置のスイッチをオフにした。しばらくしたらリックは死亡するはずである。

コロンボはいつどこでピンときたか

 ワイン協会のオフィスで、先週の日曜日のカッシーニ・ワイナリーでの出来事を聞いたとき。
 エイドリアンは、ワイナリーをおとずれていた客のひとりファルコンに、ワインのデカンターへのうつしかえをまかせた。しかし以前、デカンターへのうつしかえだけは誰にもまかせたことがないとエイドリアンは言っていた。どうしてこの日にかぎって他人にまかせたのだろうか。
 エイドリアンは、その直前に一旦席をはずして、しばらくしてからもどってきたこともつきとめた。エイドリアンが犯人であるにちがいない。

犯行を裏付ける事実

 先週の火曜日は雨天だった。雨がふっていたのにリックの車(スポーツカー)の幌はあけっぱなしになっていた(どうして幌をしめなかったのだろう)。リックの婚約者によるとリックは車をとても大事にしていた。
 エイドリアンとリックは仲が悪かった。リックはワイナリーを売却しようとしていた。
 リックが死亡したのは火曜日であり、その日は雨天だったのに、ダイビングをおこなった(妙だ)。リックの車が1週間も誰にも見られていない(変だ)。検死の結果、リックは死ぬ前2日間なにもたべていないことがあきらかになった。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 コロンボは、エイドリアンと彼の秘書をレストランにまねいて夕食をご馳走する。そしておわりに、高級ワイン「フェリエ・ヴィンテージ・ポルト(45年物)」をだした。ところが、エイドリアンはこのワインを口にしたとたん、
「飲むにたえんな。君はこのポルトを40度以上という高温の中においておいたにちがいない(This is dreadful. You have subjected this Port to a temperature in excess of one hundred and fifty degrees)」
と怒りを爆発させる。コロンボは、先週、最高気温が40度をこえた日があったことを話す。
 エイドリアンは、ワイン貯蔵庫の空調装置をオフにしていたために、自分のワインも駄目になっていることにすぐに気がつく。そして、ワイン貯蔵庫からワインを はこびだし、死ぬおもいでそれらを海になげすてる。そこに、コロンボがまっていた。
 実は、レストランでだされた高級ワインは、エイドリアンの貯蔵庫からコロンボがひそかにもちだしたものだった。エイドリアンは、自分のワインをみずから鑑定してしまったのである。コロンボは、エイドリアンならワインが高温で変質していることがわかると確信していた。
「皮肉なもんだ。あのワインがだめになっていたのがわかる人間は世界にも数人しかいなかっただろうに(That’s ironic. I’m probably a few men in the world who could’ve told you that wine was spoilt)」(エイドリアン)
「自供してくれますか(Do I get a confession, sir?)」(コロンボ)
「もちろん自供しますよ(Oh, yes. I’ll confess)」(エイドリアン)

解説:理解力がものをいう

 このエピソードでは、決定的証拠を提示するのではなく、犯人を自供へと自然にみちびいて事件を解決している。これは今までになかったあたらしい手法である。
 コロンボは、はじめはワインについてはまったくの素人であったが、短時間のうちにワインの学習をすすめていく。ワイン専門店では、店主につぎのように問いかける。
「知っていることを全部おしえてくれない? 1時間半でどれくらいできる?(I want you to teach me everything you know. What can I do in one hour and a half)」
 コロンボは、ワインについて次第に理解していき、またそうしているうちに、エイドリアンの犯行の過程についても理解する。そして最後には、犯行におよばざるをえなかったエイドリアンの心境、さらに彼の生き方や人生までも理解するにおよぶ。対するエイドリアンも、コロンボが自分をよく理解するまでにいたったことを十分さとる。
 このエピソードには、短時間のあいだに段階をふんで、犯人と事件について理解をふかめていくコロンボの姿がよくあらわれていた。コロンボの理解力はかなりなものである。コロンボは、小型のノートブックをたえずもちあるき、観察したことや聞いたこと、気がついたことを次々にメモしている。そして折りにふれてメモを見直している。ノートブックとメモは情報整理のたすけになっている。このような方法やスタイルがコロンボの理解力をささえているのだろう。
 最後に、ワイナリーの前で、エイドリアンはコロンボにかたりかける。
「全生涯を通じて、私が真に愛したのはここだけだった(It’s the only place in my entire life I was ever really happy)」
 するとコロンボは、最高のデザートワイン「モンテフェスコーネ」をとりだす。そして別れの宴になる。
「よく勉強されましたな(You’ve learned very well, Lieutenant)」(エイドリアン)
「ありがとう。何よりもうれしいおほめのことばです(Thank you, sir. That’s the nicest thing that anybody’s ever said to me)」(コロンボ)


tanokura.net 2005年12月25日発行
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