推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
18.毒のある花  “LOVELY BUT LETHAL”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 ヴィヴェカ=スコットが、カール=レッシングの顕微鏡をつかむ。

DVDチャプターリスト

(1)化粧品戦争 (2)女王の犯人 (3)警部は朝メシ前 (4)「華麗」の裏側 (5)企業スパイはいらない (6)飼い犬に手・・・ (7)ウルシ (8)かゆい手掛かり

犯行の動機

 化粧品会社ビューティーマーク社は近年業績不振におちいっており、社長のヴィヴェカ=スコット(犯人)は、新製品の発売に自社の社運をかけていた。しかし、同社の研究員であるカール=レッシング(第1被害者)は、新製品の開発情報をライバル会社であるラング社に売りわたそうとしていた。
 ヴィヴェカはカールの自宅に行き、カールと取り引きをしようとするが、カールはそれを拒否し、ヴィヴェカをあざわらう。ヴィヴェカはかっとなって顕微鏡でカールをなぐり殺してしまう。そして新製品の試作品をうばって、あわてて立ちさっていく。

コロンボはいつどこでピンときたか

 カールの自宅(犯行現場)に行ったとき。
 カールは、ヴィヴェカの写真を標的にしてダーツをやっていた。ヴィヴェカとカールとは険悪な関係にあった。ヴィヴェカがあやしい。

犯行を裏付ける事実

 カールの自宅の缶の底に八角形の跡があり、ビューティーマーク社の試作品をいれる瓶の底も八角形になっている(カールは試作品を自宅にもちかえっていた)。
 カールの自宅にあった雑誌に黒色の眉墨のペンシルで数字が書かれていた(犯人は女性である)。ヴィヴェカは黒色の眉墨で自分のホクロを書く。ヴィヴェカはカールとかつて関係があった。人事部のファイルのなかで、カールのものだけがさかさまにつっこまれていた。
 カールは、ろくに預金がないのに豪華なヨーロッパ旅行にいく手配をしていた(カールには金の入るあてがあった)。ライバル会社であるラング社の社長室の直通電話の番号をカールはメモしていた。カールはクールな野心家だった。ライバル会社であるラング社の社長は、カールの死を知った直後に20万ドルの小切手を銀行にもどした。
 ラング社の社長秘書シャーリー(第2被害者)が事故死した(毒薬をのまされた可能性がある)。
 コロンボ同様にヴィヴェカもかゆくて手をかいていた。コロンボは「毒づた」(ウルシ)にかぶれたのであったが、このあたりには「毒づた」は存在しない(犯行現場で何かにふれたにちがいない)。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 コロンボはヴィヴェカに言う。
「顕微鏡のあるところ、スライドあり。我々はおんなじところでかぶれたんですよ。二人ともスライドにさわった(Where there’s a microscope, therre’s always a slide! You see, we got our poison ivy in tha same plece. We both touched the slide)」
 ヴィヴェカは、カールの家で顕微鏡をつかって彼をなぐったときにスライドにふれた。
一方のコロンボは、現場の床をしらべたときガラスのかけらにさわった。実はそれはスライドがわれたものだった。
 コロンボは、犯行現場の床にちらばってくだけていたガラスにさわったときに毒づたにかぶれたことをつきとめた。くだけたガラスに毒づたがついたいたのである。そのガラスは、コップがくだけたのかとおもっていたがそうではなく、顕微鏡にセットされていたスライドがくだけたものであった。
 ヴィヴェカがかぶれた原因も、スライドについていた毒づた以外にはありえない。犯行につかわれた凶器は顕微鏡であり、ヴィヴェカはそのとき毒づたにふれたのであった。
 コロンボは、かみさんの兄弟のジョージの話から、顕微鏡にセットされていたスライドの存在に気がつき、それがコロンボとヴィヴェカと犯行現場をむすびつけ、ヴィヴェカの犯行を証明することになった。

解説:ねばりづよく捜査する

「やっかいな事件でした(Damnedest case I’ve ever seen)」(コロンボ)
 このエピソードは、明快さに欠け複雑でやぼったいストーリーであった。コロンボは、犯人はヴィヴェカであるという目星はつけていたが、動機や人間関係、競合会社や化粧品業界の様子などさっぱりわからなかった。
 しかし、疑問点を整理しながら、忍耐強く地道に捜査をつづけていく。
 事件の背景には、ビューティーマーク社とライバル会社であるラング社の対立軸がある。そして、ライバル会社に情報を売る社員、ライバル会社の社員を買収する社長といった複雑な人間関係がからみあっている。ここは、人間の欲望が渦巻く世界である。
 そして、ヴィヴェカが、新製品をどうしても手にいれたかったという動機に気がついていく。当然、新製品のサンプルが物的証拠になるはずであった。しかし、ヴィヴェカは証拠を隠滅してしまう。
 どうなるのだろうかとおもっていたら、おもわぬところから証拠がとびだしてくる。それがスライドであった。スライドは顕微鏡とセットになってつかうものであり、そこから毒づたがうつったことに気がついた。これが決定的なポイントである。
 この殺人事件は偶発的なものであり、犯人の周到な計画やトリックはないため、コロンボは、トリックをあばく苦労はしなかったが、時間をかけて、いくつもの不可解な事実の謎解きをし、情報をつなぎあわせながら事件の全体像を次第にあきらかにしていった。ねばりづよく捜査をすすめていくコロンボの姿勢がよくあらわれていた。


tanokura.net 2005年12月25日発行
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