推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
15.溶ける糸 “A STITCH IN CRIME”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 シャロン=マーティンが、手術室で黒い糸を床からひろいあげる。

DVDチャプターリスト

(1)メイン・タイトル/溶ける糸 (2)コロンボ登場 (3)疑問だらけの殺人事件 (4)シャロン殺しの容疑者? (5)完全なる容疑者の作り方 (6)シャロンが残したメモの謎 (7)怒れるコロンボ (8)溶ける糸の隠し場所 (9)エンド・クレジット

犯行の動機

 外科医のハイデマン博士(第1被害者・未遂)と部下の医師メイフィールド(犯人)は共同研究をすすめていた。メイフィールドは、ほかの研究グループが先手をうつまえに研究結果を発表すべきだと提案するが、ハイデマン博士はまだテストが必要だとまったくとりあわない。
 メイフィールドは、ハイデマン博士がいるかぎり研究結果を自由に発表することはできない。しかし、もしハイデマン博士がいなくなれば、自分が結果を発表し、研究業績をひとり占めにすることができる。
 メイフィールドは、ハイデマン博士の心臓手術をおこない「糸」の細工をする。
 しかし、手術を補佐した看護婦のシャロン=マーティン(第2被害者)はその事実を知ってしまう。

コロンボはいつどこでピンきたか

 手術見学室で、病院の医師から「溶ける糸」の存在を聞いたとき。
 コロンボは、ハイデマン博士の病室で、シャロンがのこしたメモ「MAC」が、医療用具会社「マーカス・アンド・カールソン」の頭文字だということに気がつき、この会社は、手術用の糸を病院に入れていることを知った。
 病院の医師によれば、糸には、溶けない糸と一定期間ののち溶けてしまう糸があり、もし、心臓手術にその「溶ける糸」をつかったとしたら、患者は死亡してしまうという。
 メイフィールドが、ハイデマン博士を殺害するために「溶ける糸」をつかい、その事実にシャロンが気づいてしまったとすると、すべてのつじつまがあう。

犯行を裏付ける事実

 メイフィールドは、シャロンの死亡をつたえる電話をうけておどろいているのに、電話をしながら机の上にあった時計の針をなおしていた(普通ならショックで他のことはできないはずである)。
 犯行現場でみつかった凶器にもシャロンの家でみつかったモルヒネの瓶にも指紋がまったくついていなかった。メイフィールドは、シャロンの友人をよびだして、元麻薬患者のハリー=アレキザンダー(第3被害者)があやしいことを警察に知らせるように説得した。ハリーは左利きなのに、左手に注射をうたれていた。メイフィールドはモルヒネを病院からもちだすことができる。メイフィールドは、「溶ける糸」をつかえば心臓発作にみせかけてハイデマンを殺害することができる。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 コロンボは、メイフィールドが、ハイデマン博士を殺害するために、ハイデマン博士の心臓に「溶ける糸」を仕込んだとかんがえ、メイフィールドに再手術をさせた。しかし、物的証拠となる「溶ける糸」はどこからも出てこなかった。
「今度はポカやりました。あたしも年ですかねぇ。そ、あたしの負けだ。しっぽまいて退散します(Well, it goes to show you, Doc, maybe I’ve been at this job too long. Okay, you win. You’re finally rid of me)」
コロンボはこう言って、メイフィールドのオフィスを後にする。メイフィールドは勝利のよろこびにひたり安堵する。
 しかし、コロンボは、すぐにもどってきた。
「先生、ご立派。まず完璧と言っていいでしょう。あんた、絶対 捜索されないところに糸をかくした。それはここだ。あたしのポケット(You know, in a way, I have to congratulate you. There was only one thing we didn’t search. You know what it was? It was me)」
 コロンボは、着ていた手術着のポケットの中から「溶ける糸」をしずかにとりだす。
 メイフィールドは、元々冷静を必要とする外科医であり、おこったときでさえ爆発するようなことはない。しかし、なぜか再手術直後には、怒りをあらわにしてコロンボをこづいた。この瞬間に、メイフィールドはコロンボのポケットに「溶ける糸」をかくしたのだった。

解説:盲点に気がつく

 「溶ける糸」による完全犯罪のシナリオをえがいたメイフィールドにとって、糸のすりかえをシャロンに気づかれてしまったことは想定外だった。そこでメイフィールドは、次の一手としてシャロンを殺害する。
 そしてコロンボは、捜査を、シャロン殺害事件としてはじめ、メイフィールドが電話をしながら時計の針をなおしているのを見たとき、彼に最初の疑いをもち、ここから二人の対決がはじまる。
 メイフィールドはハイデマン博士に言っていた。
「担当の刑事がきてます。コロンボとかいう人で、やり手ですよ(They’ve got someone on it. A Lieutenant Columbo. He’s very efficient)」
 次に、メイフィールドはハリーを殺害し、シャロン殺しは麻薬患者ハリーの仕業であるかのように見せかける。メイフィールドは次々に手をうってくる。
 一方のコロンボはますます疑念を強くする。しかし謎はとけない。シャロンはなぜ殺されたのだろうか。
 この謎をとくキーは、シャロンがのこしたメモにあった。このメモが「溶ける糸」へとつながっていく。
 ところがメイフィールドは、コロンボの追及に対して大笑いをする。
「どうも失礼。あ、は、あまり君が大まじめなんでね。まさか本気で言っておられるんじゃないでしょうな(Excuse me, Lieutenant. I had to play it as though you were serious You don’t really believe all those foolish things you say, do you?)」
 対するコロンボは、机をたたいて、大声でどなる。
「ハイデマン博士の面倒をよくみることだ。もし死んだら、当然われわれは検死解剖を、要求する。そして、単なる心臓発作による死亡なのか、糸のためなのかを確認するからな(I want you to take good care of Dr.Hiedeman, because if he dies, we’re going to have to have an autopsy, aren’t we? I mean, we’re going to have to know whether a heart attack killed him, or whether it was just dissolving suture)」
 これをうけて、メイフィールドは最後の勝負にうってでる。
 メイフィールドはコロンボの能力の高さに気がついていた。
「君は立派な刑事だ。知性もあり、勘もするどく、そしてねばり強い(Lieutenant Columbo, you’re remarkable. You have intelligence. You have perception. You have great tenacity)」(メイフィールド)
 メイフィールドには、ハイデマン博士の再手術後に「溶ける糸」が徹底的に捜索されることはわかっていた。そこで、絶対に捜索されない場所、すなわちコロンボ自身にそれをかくした。ここは、かんがえられるコロンボ唯一の盲点であった。コロンボがこの盲点に気がつくかどうか。この一点に勝敗がかかっていた。
 盲点とは、意外にも自分自身の中にあるものである。周囲はよく見ていても、自分のことはよく見えていないことは実に多い。しかしコロンボは、メイフィールドが普段とはちがい感情的に反応したことをおもいだし、最後の最後で盲点に気がつき、逆転勝ちしたのであった。


tanokura.net 2005年12月25日発行
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