推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
07.もう一つの鍵 “LADY IN WAITING”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 ベス=チャドウィックが、兄ブライスのキーホルダーから玄関のキーをとりはずす。

DVDチャプターリスト

(1)メイン・タイトル (2)殺人計画 (3)もう一つの鍵 (4)コロンボ登場 (5)誤認殺人の裁判 (6)新社長ベスの評判 (7)いくつかの矛盾 (8)殺人の再現 (9)エンド・クレジット

犯行の動機

 ベス=チャドウィック(犯人)は、兄ブライス=チャドウィック(被害者)が社長をしている広告代理店の法律顧問・ピーター=ハミルトンと交際していた。
 しかし兄ブライスは、ピーターは野心家であり、ベスとの交際は名家に入りこむための手段であるとかんがえていて、交際をつづけるなら彼に会社をやめてもらうとつげる。ベスはヒステリックに抗議する。
 またベスは、兄がいるかぎりすべてを支配されてしまい、何一つ自分の思い通りにはならないとおもっており、何とかして、家も広告代理店もすべてを自分のものにしたいとかんがえていた。
 ベスは、事故をよそおった殺人を計画する。

コロンボはいつどこでピントきたか

 犯行現場になったチャドウィック邸で、玄関のそばにおいてあった新聞をよんだとき。
 その新聞はその日の最終版であったので、その日に、誰かがもちこみ玄関のそばにおいたはずである。チャドウィック邸にやってきたピーター(ベスの交際相手)はもってきないないというし、ベスは1日中家の中にいたと言う。したがって、ベスの兄ブライスがもちこんだということになる。
 しかし、ベスは、兄ブライスは寝室の窓から入ってきたと言っている。玄関のそばにあるのはおかしい。これは過失ではなく事件であるにちがいない。

犯行を裏付ける事実

 犯行当日、執事のチャールズ夫妻が不在だった。殺されたブライスは、ベスとピーターが交際することに反対していた。ベスは、彼女の母親に対し、広告会社は自分が切り盛りしてみせると宣言した。ベスは、1ヶ月以上前に新車を注文していた。
 ブライスの靴には芝がまったくついていなかった(庭をあるいてきたなら芝がついているはずである)。玄関のわきにある植木鉢の土に鍵の跡があった。切れていた電球がとてもきれいだった(長い間つかったのだからよごれているはずである)。
 ベスは、ブライスが経営していた広告会社の社長になった。

コロンボはいかにして決着をつけたか

「あの晩もこれとおなじだったんでしょ(This is the way your brother came in that night, isn’t it?)」
と言ってコロンボは、ベスの前に姿をあらわす。スペアーキーをつかって玄関から入ってきたのだった。
 ベスの説明によると、ベルの音を聞いておどろき、強盗と勘違いしてブライスを撃ったということになっているが、事件当夜ベスの家に偶然きたピーターの証言はそれとはちがっていた。
「問題は順序さ。彼が最初に聞いたのは銃声で、ベルはその次だった(He heard the shots first, then the alarm. That’s the cart before the horse)」(コロンボ)
 つまり、最初にベルの音を聞いて目をさましたというのはベスの作り話だったのである。事件当夜、ブライスは窓からではなく、スペアーキーをつかって玄関から入ってきた。それにおどろいたベスは、ブライスを撃ち殺し、そしてあわててベルをならした。これが真実である。
 ピーターのあらたな証言が、これを証明する結果となった。

解説:証言をひきだす

「あの晩いってましたね。記憶力には自身があるって。それにあんたたった一人の目撃者だ。あの日のことを正確におもいだしてくれませんか(If you can remember that, and you tell me you got a terrifec memory… then you’ll know, you’ll know for sure whether or not Beth Chadwick… murdered her brother)」
コロンボはこう言ってピーターからあらたな証言をひきだした。
「今まで証拠がなかったが、あんたの婚約者のお陰でようやくそろった。皮肉なもんだねぇ(I had to wait for the proof. I had to wait for your fiance to give it to me. Although I don't think he meant to)」(コロンボ)
 ベスにとっては二つのことが想定外だった。一つは、ブライスが、マスターキーをつかって玄関から入ってきてしまったこと。ベスはマスターキーの存在を知らなかった。もう一つは、ピーターがたまたまチャドウィック邸にきて、銃声とベルの音を聞いてしまったことである。
 それにくわえ、ピーターは記憶力が大変よいことも事件解決にむすびついた。ただし、ピーターは、自分では意図せずにコロンボに証言をあたえている。
 捜査を丁寧にすすめていても、すべてのものを直接観察することはできないし、記録も完全ということはありえない。当然のことながら、関係者からの徹底的な聞き取り調査が証拠あつめのために必要になる。聞き取りは、捜査のもっとも重要な手法の一つであり、特に、形にのこらない過去の出来事に関する情報をえる場合にはなくてはならない方法である。そのためには、記憶力のよいすぐれたインフォーマント(情報提供者)が必要であり、そのようなインフォーマントをさがしだすのも能力のうちである。
 このエピソードでは、コロンボは、物的証拠をえたわけではないし、犯人に罠を仕掛けたわけでもない。コロンボは、犯行現場にたまたま居合わせたピーターに注目し、あらたな証言をえることに目標をしぼった。そして決定的な証言を聞きだした。
 ここで重要なことは、証言とは、見たことだけでなく、聞いたことでもよいということである。聞こえたことも重要な情報である。コロンボは、目撃者ならぬ「耳撃者」から見事に事実をひきだし、事件解決にこぎつけたのである。


tanokura.net 2005年12月25日発行
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