推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
02.死者の身代金 “RANSOM FOR A DEAD MAN”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 レスリー=ウリアムズが録音テープにハサミをいれる。

DVDチャプターリスト

(1)偽装誘拐殺人 (2)メイン・タイトル (3)コロンボ登場 (4)脅迫電話トリック (5)死者の身代金 (6)義理の娘マーガレット (7)マーガレットの疑惑 (8)レスリーとの空中散歩 (9)ハスラー・コロンボ (10)コロンボ、仕掛ける (11)レスリーの誤算 (12)エンド・クレジット

犯行の動機

 女性弁護士レスリー=ウリアムズ(犯人)とおなじく弁護士で夫のポール(被害者)は共同で弁護士事務所を経営しているたが、レスリーは自分の出世のためにポールと結婚し、彼を利用しただけだった。
 そのことに気がついたポールは、レスリーと離婚しようとしたが、レスリーにはその気はまったくないばかりか、彼の財産を手にいれようとしていた。

コロンボはいつどこでピンときたか

 レスリーの自宅で、誘拐された夫から電話がかかってきたとき。
 夫の誘拐事件が発生し、夫は誘拐されているにもかかわらず、レスリーは、「あなたご無事?」などと言って夫の安否をひと言もたずねなかった。これは変である。

犯行を裏付ける事実

 レスリーの家のハウスキーパーが先週から休暇をとっていた。
 レスリーは軽飛行機から身代金をいれたバッグを投下したが、金をとってバッグをおいてにげていった(犯人はいそいでいたはずなのに妙である)。
 レスリーは、夫の死亡を知ったとき、発見場所やどうして死亡したかなどについてまったく質問しなかった。それまではしっかりしていたのに、そのとき急にくずれおちた(できすぎである)。
 葬式の直後、義理の娘マーガレットがレスリーをなぐった。
 ポールは、立った状態で下方から(すわった犯人に)銃でうたれた(ポールはいったい何をしていたのか)。凶器の拳銃は、体をつきぬけない口径のものがつかわれていた(部屋に痕跡がのこるとこまるから)。発見されたポールの車のシートがすこし前に移動していた(女性が運転していた)。ポールの車のキーがみつからない。
 レスリーの事務所にはタイマー付き自動電話があり、きめられた時間に録音をつかって自宅に電話をかけることができる。

コロンボはどのようにして決着をつけたか

 コロンボはレスリーに言う。
「人は金さえもらえば肉親を殺された恨みもわすれてしまうもんだ、あんたそう確信した。あんた自身がそういうタイプだからだ。そこが誤算、とんでもないおもいちがいさ。マーガレットを買収できるとおもった。それが命とりだった(Did it ever occur to you that very few people that would take maney to forget about a murder? It didn’t, did it. I knew it wouldn’t. No conscience. Limits your imagination. You believe that Margaret could be bought)」
 そしてアタッシュケースを見せる。それは、レスリーが義理の娘マーガレットにあたえたものである。その中には、身代金の一部が入っている。これが物的証拠(決定的証拠)となる。
 コロンボは、誘拐そのものは見せかけにすぎないが、金(身代金)は現実にぬすまれたということに注目した。一方で、レスリーが欲ぶかい上に自信家であることをよく知っていた。
 そこで、マーガレットに芝居をうってもらい、レスリーに身代金の一部をつかわせるように仕組んだのである。レスリーはそうとは知らず、現金をもちだしてしまった。レスリーは、自分の欲のふかさに裏切られたのである。

解説:物的証拠をおさえる

 コロンボは言っていた。
「一つ一つはそれこそ絵空事だけれども、それを全部くみあわせて全体として見ればヒントがでるんです。それは事件の陰に何かがあるってことです(I know all these things don’t seem like much. Put them all together one on top of the other, and I am telling you, that kidnapping just doesn’t add up)」
 コロンボは、いくつものデータを組みあわせてみると、誘拐があったとはかんがえられず、そうだとすれば、やはり、犯人はレスリーであると確信する。しかし、推理だけで物的証拠(決め手)がまったくない。つまり立証ができない。この事件は迷宮入りしそうに見える。
 ところが、コロンボはこうも言っていた。
「長いこと刑事やってますと誰でも鼻がきくようになるもんでしてね。当人が気づいていない話の中から糸口をひきだすのがあたしの商売でしてね(I’ve been a cop for a long, long time, and after a few years, believe me, the old nose gets to be pretty good)」
 そして、コロンボは、身代金(現金)の存在とレスリーの性格上の盲点に気がついた。身代金はレスリーがどこかにかくしているはずであり、レスリーは、マーガレットにけしかけられれば、金銭取り引きに応じるはずである。誘拐が存在しなかったことを直接は証明できなくても、身代金がレスリーのもとに存在することは、それを、引きださせることができればただちに証明できる。
 コロンボは、このように、仮説にもとづいて適切な推論をしたうえで、物的証拠(決定的証拠)を手にいれたのである。
 このエピソードは、たくさんのデータがあっても、物的証拠(決定的証拠)がなければ事件は解決できないことをしめしている。しかし一方で、物的証拠が1つ見つかれば、事件は解決できることもしめしている。つまり、仮説を明確にするためにはたくさんのデータが必要であるが、事件解決のための決定的証拠はたった1つあればよいのである。したがって、その1つの決定的証拠を手にいれるために、どこに目標をしぼったらよいか、それが、事件解決のための重要なポイントになる。
 このような点でコロンボは、非常に「鼻がきく」人物であり、物的証拠をたくみに見つけだすことができた。


tanokura.net 2005年12月25日発行
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